研究課題/領域番号 |
19J10015
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
斎藤 晃 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | エタン / エチレン / BTX / ゼオライト / ペロブスカイト酸化物 / 脱水素 / 酸触媒 |
研究実績の概要 |
近年のシェールガスや石油随伴ガスに含まれる安価なエタンの高付加価値化を目指し、エタンからエチレン及び芳香族化合物への転換のための触媒開発に取り組んだ。 エチレン製造触媒は、既存のエチレン生産プロセスであるエタンクラッカーに導入し、そのプロセスの省エネルギー化に貢献できる。エタンクラッカーは反応系にエタンと水蒸気が共存する系であり、水蒸気改質などの副反応を抑制できる触媒設計が求められる。エタンを効率的にエチレンへ転換するためには強固なC-H結合を選択的に解離させる必要がある。これまでのGa触媒の知見から、エタンの活性化には触媒の酸化還元能が重要であることが示唆されていたため、そのような材料としてペロブスカイト型酸化物に着目した。結果としてLaとMnに微量のBaを加えたペロブスカイト型酸化物が既存のGa触媒の5倍以上の性能を示すことを見出した。これはGa触媒と異なる機構で反応が進行することが要因であることを明らかとした。性能評価はエタンクラッカーの反応温度よりも100℃以上低い温度でエチレンを生産することができ、カナダでのパイロット試験も実施された。 エタンからの芳香族への転換は、ゼオライト触媒を用いた研究がなされてきた。従来、エタンから芳香族が生成する反応経路は、エタンの脱水素によりエチレンが生成した後に、エチレンが重合、環化されて芳香族が生成すると提唱されていた。この反応経路を明確にすることで、特定の芳香族(例えば付加価値の高いパラキシレン)を選択的に生成する触媒設計の指針が得られる。そこで、反応中間体であるエチレンを原料として芳香族が生成する経路の解明を行った。結果として、エチレンはゼオライト細孔の中で多環の芳香族へと転換され、この多環芳香族の側鎖(アルキル基)を介して芳香族が生成するという新たな反応経路を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エタン脱水素について、研究当初はGa酸化物を触媒に使用していた。Ga酸化物が高いエタン脱水素活性を示す理由として、Gaのルイス酸性とその隣り合う酸素のルイス塩基性がエタンの活性化に重要であると考えていた。それに基づいて、昨年度は種々の金属酸化物のルイス酸塩基性を評価することを計画していたが、Ga触媒の研究を進めていく中で、ルイス酸塩基性よりも、金属酸化物の酸化還元能がエタンの活性化にとって重要な要素であるということが示唆された。実際に、そのような材料としてペロブスカイト酸化物を選定した結果、従来のGa触媒よりも高い触媒性能が得られた。このように、従来の研究計画の方向性とは異なったが、新たな発見によって触媒性能を高めることができた。 エタン脱水素芳香族化では、反応経路の解明という方向性に変化はなかった。当初は、反応温度やエタン分圧といった反応条件を制御することで、反応経路を明らかにすることを提案していた。しかし、オランダの研究グループとの共同研究を進める中で、ゼオライトの細孔中に存在する炭化水素種が芳香族生成に寄与している可能性を見出し、新たな反応経路を査読論文として発表した。 以上のように、エタン脱水素とエタン脱水素芳香族化のいずれにおいても、研究計画を変更することになったが、それによって新たな知見を得ることができ、それを査読論文として発表することができたことから、期待以上の成果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べたように、エタン脱水素ではペロブスカイト酸化物を触媒として使用することで、触媒の酸化還元を介してエタン脱水素が進行することを明らかとした。この反応機構はエタンと水蒸気が共存する系において特有の現象であり、水蒸気が共存しない系では触媒性能は低下する(この状態では触媒の酸化還元無しで反応が進行)。これらの結果を受けて、エタン脱水素では、初めにペロブスカイト酸化物の表面でエタン脱水素の律速段階(反応のボトルネック)を特定する。これは、実験的にはエタンの活性化や水蒸気の活性化に必要なエネルギーを測定するとともに、計算化学的な手法によってエタン脱水素のエネルギーダイアグラムを算出することで、明らかにできると考えられる。また、触媒の酸化還元が起こる場合と起こらない場合で反応機構が異なることから、エタン活性化のために触媒の酸化還元を介することが有利な理由を明らかにする。 エタン脱水素芳香族化では、昨年度は中間生成物のエチレンを原料とした検討を進めたが、再びエタンを原料とする。エタンの活性化にはゼオライトに金属を修飾する必要があるが、この金属種としてGa, Zn, Moなどが有効として知られる。Moはエタンのみならずメタンの活性化にも有効であることが知られている一方で、GaとZnはプロパンの活性化にも有効であることが知られている。これまでは、主にZn触媒について検討を行ってきたため、Moを担持金属として使用することで、芳香族生成に影響を与えうるかを明らかにする。
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