2019年度は、エタン脱水素では高い酸化還元性を示すペロブスカイト酸化物が高いエチレン生成能を示すことを明らかにした。エタン脱水素芳香族化では、ゼオライト触媒がもつミクロ孔内で反応中間体であるエチレンがベンゼンなどの芳香族炭化水素に転換される反応機構を明らかにした。 2020年度におけるエタン脱水素の研究ではLaMnO3にBaドープしたペロブスカイト酸化物の表面でエタン脱水素がどのように進行するかについて、計算化学的なアプローチで検討した。この系では計算化学的に触媒サイクルが成立しないという矛盾があった。これは計算モデルが実験系を十分に再現できていないことによると考えた。そこで、表面吸着種の効果を取り込むため、エタン脱水素中に生じる吸着水素を計算モデルに取り込んだところ、計算化学的に触媒サイクルが成立することを明らかにした。また、Baドープによる反応促進効果をエネルギー計算によって検討した。その結果、エタンの活性化に関与する表面格子酸素がBaドープによって電子欠乏状態になることを明らかにした。 エタン脱水素芳香族化では、ゼオライト触媒の担持金属が芳香族炭化水素の生成機構に与える影響について検討した。低級アルカンの芳香族化ではメタンの場合にMo、エタンやプロパンではGaが有効な担持金属として知られる。この違いを明らかにするため、パルス反応器で過渡的な生成物を調べた。その結果、Gaでは数パルスでベンゼンの生成が確認されたが、Moではベンゼンの生成に60パルス程度が必要となった。Moではベンゼン生成前に活性点の形成期が存在し、これを経てベンゼン生成が促進される。また、副生成物であるメタンやプロピレンの生成挙動が異なることから両者では異なる反応機構でベンゼンの生成が起きていることが示唆された。
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