研究課題
本研究では,日本で急速に種分化したサトイモ科テンナンショウ属がどのようにして種多様性を維持しているのか解明するため,テンナンショウ属5種が同所・側所的に自生する集団を対象として,種間交雑を防ぐ生殖隔離機構(A. 生育環境隔離,B.季節的隔離,C.送粉者隔離)を網羅的に評価した.今年度は予備調査で得られたデータから各生殖隔離の強さを評価する (①) とともに,送粉者隔離の正確な評価を試みた (②③).①各生殖隔離の強さの評価:予備調査で得られた,調査地内での5種の分布 (A. 生育環境隔離),開花時期 (B.季節的隔離),訪花昆虫相 (C.送粉者隔離) のデータから,各生殖隔離の強さを全ての種の組合せで数値化した.その結果,組合せごとにA.生育環境隔離とB.季節的隔離の強さは大きく変動した一方,C.送粉者隔離は全種間で強固だった.②植栽実験:予備調査の結果,5種のうち2種は分布の重複範囲が狭いことが分かっており,この2種間では場所ごとの昆虫相を反映することで送粉者隔離が過大評価される可能性があった.そこで,調査地全域に計10か所の実験区を設け,各実験区に各種1個体ずつ計5個体の実験苗を植栽し,訪花昆虫を比較した.その結果,いずれの調査区でも一貫して種特異的な昆虫が訪花することが判明した.③広域調査:調査地以外でも,種特異的な昆虫が訪花するのかどうか検証するため,各種3カ所ずつ追加調査地を定め,訪花昆虫を採取した.その結果,テンナンショウ1種では地域ごとに訪花昆虫相が異なっていたが,残りの4種では一貫して種特異的な昆虫が訪花していた.以上の結果から,テンナンショウ属5種間では,種の組合せごとに強度の変化するA.生育環境隔離やB.季節的隔離を,空間的・地域的な昆虫相の不均一性に左右されない強固なC.送粉者隔離が効果的に補完することで,種間交雑が強く抑制されていると考えられた.
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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植物研究雑誌
巻: 95 ページ: 58-60
American Journal of Botany
巻: 106 ページ: 1612-1621
10.1002/ajb2.1389