研究課題/領域番号 |
19J10096
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
会見 昂大 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 小脳 / プルキンエ細胞 / 登上線維 / シナプス / 電気生理 |
研究実績の概要 |
神経細胞同士のつなぎ目である「シナプス」は、記憶・学習の基盤となる構造である。シナプスは、発達期に形成されるだけでなく、成熟後においてもダイナミックに改変されることがこれまでに分かってきた。幼若期の小脳プルキンエ細胞(PC)は複数の登上線維(CF)とシナプス(CFシナプス)を形成するが、発達過程で1本のCFとのみ多数のシナプスを作り、残りのCFは除去される。従って成熟後の小脳ではPCとCFは1対1の関係でシナプスを作り、CFの単一支配様式が確立している。本研究では、成熟後の小脳におけるダイナミックなシナプス改変を担う分子機構の解明を目指す。 補体C1qファミリー分子に属するC1ql1は、CFシナプス前部から分泌され、シナプス後部のPCに発現するBAI3に結合する。本研究課題では、成熟後の小脳においてC1ql1やBAI3の発現量を増減させて、CFシナプスに起こる変化を調べている。BAI3の発現量を増減させて、電気生理学的にCFシナプスの機能を解析したところ、シナプス数の減少や、CFの支配様式の変化が起きることが分かった。PCのカルシウムイメージングも行ったところ、CFシナプスの変化は、PCの特定領域において高頻度で起きることも分かった。また、先行研究において、成熟後の小脳におけるCFの支配様式の変化が報告されていたが、この変化においてBAI3が必要であることも分かった。更にCFシナプスの変化には、PCへの異なる入力である平行線維シナプスの変化を伴っていることが示唆された。一方で、CFにおけるC1ql1の発現量を増加させて、CFの形態学的な変化について解析したところ、CFの支配様式や、CFシナプスの位置が変化する様子が観察された。 以上の結果より、成熟後の小脳におけるC1ql1-BAI3シグナリングは、CFシナプスのダイナミックな改変を制御する機構と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、本研究課題を遂行するにあたり、実験手法の種類に変更があった。これまでにホールセルパッチクランプ法を用いた電気生理学的解析を行ってきたが、加えて新たにカルシウムイメージングや組織形態学的解析など異なる手法を取り入れ、多角的にシナプスの改変現象を調べることができた。カルシウムイメージングについては初めて取り組むこともあって、手技の確立や条件設定などに時間を要したが、得られた結果については、他の実験結果とも一致するなど期待通りであった。組織形態学的解析については、細胞形態を可視化するために必要な遺伝子導入方法の考案から着手したが、当初の期待以上の手法を確立することができたと考えている。また、異なる研究課題の遂行にも有用であることが分かるなど、波及的な影響も生じたことから、有益な取組みであったと考えている。 次に、本年度においては特に複数系統の遺伝子改変マウスを必要とする実験が多かった。マウスの飼育管理について、所属研究室の技術員の方から多大なサポートを得ることができ、恵まれた実験環境で効率良く実験を進めることができた。結果についても、仮説に沿うポジティブな所見を得ることができ、研究計画は大きく進捗した。 一方で、期待以上の実験結果が得られたことから、研究計画を新たに発展させる方針を取ったことで、本年度において目標としていた論文発表については達成することができなかった。 上記を総合的に考え、本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本研究課題を進めることで分かってきた、成熟後の小脳におけるシナプスの改変現象について、その組織形態学的な特徴を光学顕微鏡下で引き続き調べる。特に、3次元的に生じる形態変化について定量的な評価系を構築し、解析結果をまとめる。また、本研究課題において注目しているCFシナプスの活動への介入実験を予定している。神経活動依存的な、シナプスの形態変化がどの様に見られるか、上記で構築する評価系も用いて解析する。更に、シナプスの微細構造変化を検出するために、光電子相関顕微法を用いた解析手法の考案にも取り組む。具体的には1つのPCを支配するCFの走行やシナプスについて、その支配領域全てを電子顕微鏡下で撮影し、3次元的に再構成する方法論を確立する。この手法を用いて、様々な分子を欠損・変異させたときに起こる、シナプスの変化を評価したいと考えている。 上記の実験計画を推進しつつ、得られた結果をまとめて学術雑誌に投稿し、論文として発表することを目指す。
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