研究課題
本研究の目的は,地下の亀裂系岩盤における流体挙動評価を目指して亀裂内流体挙動と岩石物性を関連付けることである。本年度はまず,実岩石亀裂のデジタルモデルに格子ボルツマン法を適用することで,亀裂内の微視的な流体挙動の可視化を試みた。本年度使用した試料は,粗さの異なる2種の花崗岩及び地熱地域で採取された安山岩である。これらに対して透水試験を実施し,さらに同試料の表面粗さ形状をもとにデジタル岩石シミュレーションを行った。本研究におけるデジタル岩石シミュレーションは,格子ボルツマン法による3次元流体流動計算ならびに有限要素法による電気比抵抗・弾性波速度計算から構成される。得られた成果として,まず流体流動計算により亀裂内の微視的な流体挙動の可視化に成功した。またこの計算結果と実験値をフィッティングすることで,有効垂直応力の変化による流路の遷移のイメージングに成功した。さらに一連のデジタルモデルの電気比抵抗・弾性波速度解析から,水理特性と岩石物性値の関係が明らかとなった。電気比抵抗と亀裂浸透率の間には粗さに左右されない関係性があることが見いだされ,これは実フィールドでの観測に有用な知見となる。その一方で弾性波速度と亀裂浸透率の関係性は粗さによって変化することが示され,これには空隙率に加え亀裂面の真実接触面積が重要なファクターである可能性が示唆された。また本年度は予定していなかった地熱地域で採取された実岩石亀裂の解析の結果,上述の試料とは粗さ分布が大きく異なるため,亀裂内の流路分布に大きな差が認められた。さらに同試料の表面粗さスペクトルを用いて,異なる亀裂寸法の数値亀裂を造成し,水理特性と岩石物性値の関係に対するスケール依存性を調べた。その結果,比抵抗・弾性波速度双方において,浸透率との間にスケール依存性がある可能性が示唆された。今後さらなる解析を行い,詳細な検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り,実岩石亀裂を用いて浸透率・比抵抗・弾性波速度を解析するデジタル岩石シミュレーション手法を確立することができた。また粗さの異なる岩石亀裂の解析結果の比較により,水理特性と岩石物性値の関係が粗さによって異なることが明らかとなった。しかしながら,等方的な数値亀裂モデルを採用した予察的な検討では,統計的にモデルの粗さ(表面凹凸の二乗平均平方根)を変化させても弾性波速度と浸透率の関係性に有意な変化が見られなかったことから,実岩石亀裂の異方性が弾性波速度と浸透率の関係性に変化を生じさせていると推察することができる。なお予定していた実験は今年度中に行うことができなかったものの,予定を前倒しにして,地熱地域で採取された実岩石亀裂の解析にも着手することができた。
水理特性と岩石物性値の関係性について,亀裂形状特性の観点からその定量的評価を行う。これに関して,実岩石亀裂のスペクトルを用いた数値亀裂モデルを新たに取り入れてより詳細な検討を行う。また確立したデジタル岩石シミュレーション手法を二相流条件下に応用することを試みる。二相流体流動シミュレーションは,既に開発を進めている二相系格子ボルツマン法(Shan Chen法)を用いて行う。また本手法の妥当性評価として,既に作成済みの二相流透水試験システムを用いた実験を行い,同時に浸透率・流体飽和度・比抵抗ならびに地震波速度のマルチチャンネル計測を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 オープンアクセス 4件、 査読あり 5件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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