研究課題/領域番号 |
19J10141
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菊池 麻子 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 糖質加水分解酵素 / GH97 / 分子進化 / α-glucoside hydrolase / α-galactosidase |
研究実績の概要 |
反転型α-glucoside hydrolaseと保持型α-galactosidaseを含む糖質加水分解酵素ファミリー97 (GH97) は,基質特異性と触媒機構が多様なファミリーである.我々の研究により,GH97は基質認識機構も多様であることが明らかになりつつある.本研究では,GH97がどのようにして様々な基質認識および触媒機構を有する酵素群へと分子進化したか明らかにすることを目的とした.目的達成にあたり,腸内細菌が複数個のGH97パラログを有する点に着目した.共通の遺伝子から分岐した個々のパラログを解析・比較することで,基質認識や触媒機構の決定に重要な構造因子が特定できると考えた.2019年度は,着目したGH97パラログのうち,機能未解析の6個について基質特異性と立体構造を解析した. はじめに,各酵素の基質特異性を調べるため,組換え酵素をそれぞれ調製しp-ニトロフェニル (pNP) 合成基質に対する加水分解速度を測定した.反転型酵素と予想されたパラログはpNP α-glucopyranosideを効率よく加水分解したことからα-glucoside hydrolaseと決定した.一方,保持型酵素と予想されたパラログはpNP α-galactopyranosideを効率よく加水分解したことからα-galactosidaseと決定した.さらに詳細な基質特異性を決定するため,各酵素を種々のグルコシドまたはガラクトシドと反応させ加水分解速度を測定した.各酵素はそれぞれ異なる構造の糖質によく作用したことから,それらは様々な基質特異性を示すことが分かった.以上のことからGH97は反転型α-glucoside hydrolase群と保持型α-galactosidase群に分かれた後,さらに、多様な基質特異性を有する酵素へと分子進化したことが示唆された. 次に,X線結晶構造解析により各酵素の立体構造を明らかにすることを試みた.構造解明を目標とした5個のパラログのうち,4個の立体構造を決定することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子クローニング,大腸菌での生産系構築,組換え酵素の精製,基質特異性の決定および立体構造解析について概ね計画通りに研究進行できた.特に立体構造解析については予想以上の成果が得られた.さらに,興味深い基質特異性を示す酵素を取得することができた.しかし,予定していた「各酵素の触媒機構の確認」を行うことができなかった.以上を踏まえ,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
まず,各酵素の基本的性質の解明について2019年度に終えられなかった解析を引き続き行う. 続いて,得られた立体構造情報をもとに,各酵素へ部位特異的変異を導入する.基質特異性を改変することで基質認識に重要な構造因子を同定し,パラログ間でどのように変異が蓄積しているか調べる.得られた基質特異性に関与する構造情報を考慮し,GH97酵素に対して部位特異的変異を導入し,触媒機構を変換する.本研究結果を総合的に考察し,GH97酵素における基質認識と触媒機構の分子進化の過程を解明する.
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