マメ科モデル植物であるミヤコグサは多量かつ構造的に多様なトリテルペノイド(植物特化代謝産物の一群)を生産する。水耕栽培(土を使わず、栄養溶液のみで栽培する手法)により育てたミヤコグサは胚軸から根にかけて、糖尿病治療薬の医薬品原料としても期待される有用トリテルペノイド、ベツリン酸を多く蓄積する。本研究では、分子生物学的並びに分析化学的手法を用いて、水耕栽培条件下でどのような遺伝子が働くことで多量のベツリン酸の蓄積を可能にしているか明らかにし、代謝改変によるベツリン酸増産を目指した。 初年度の研究において、ミヤコグサが通気組織特異的にベツリン酸を蓄積すること、ならびに通気組織において生合成遺伝子群と複数の転写因子や輸送体遺伝子の発現が有意に上昇することを明らかにした。 当該年度は2つの転写因子をそれぞれ単独で過剰発現するミヤコグサ毛状根系統を作出することで、ソヤサポニン生合成酵素遺伝子群の発現にほとんど影響を与えず、ベツリン酸生合成酵素遺伝子群の発現を特異的に活性化することを見出した。それらの毛状根系統はGFP遺伝子のみを導入したコントロール系統に比べて4倍以上のベツリン酸を蓄積していた。加えて、得られた毛状根のトランスクリプトーム解析を実施し、当該転写因子過剰発現系統ではベツリン酸生合成遺伝子群と共に複数の輸送体遺伝子が有意に発現上昇することを確認した。以上のように、新たに単離した転写因子がミヤコグサ毛状根におけるベツリン酸生産量の向上に利用できることが示された。また、水耕栽培において発現が誘導される輸送体遺伝子が当該転写因子の過剰発現により発現上昇することが確認され、当該輸送体がベツリン酸代謝に関わる可能性が改めて示唆された。
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