研究課題/領域番号 |
19J10285
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
袁 甲幸 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 公論 / 意思形成 / 府県会 / 地方官 / 行政 |
研究実績の概要 |
2019年度は、国家権力(制度)と地域社会(代表としての議会)との間に介在していた重層的な合意形成機関を対象に、府県の行財政運用における「公議」の展開を考察することを目標としていたが、その目標は概ね順調に達成できたといえる。 主な研究成果は以下の通りである。 まずは、以前の研究の継続として、これまでほとんど注目されてこなかった府県長官の自主「会議」、府県庁内の属官「会議」のような、幕末維新期の公議輿論機関の性格を強く引き継いだものを対象とする研究を完成させた。それらの「会議」が生成された背景と発展過程、その議事規則、議事内容、および「議員」の認識を明らかにしたことによって、国家レベルの制度・政策がいかなるプロセスを経て地方の行財政展開のなかに組み込まれた過程をより精緻に解明したほか、公議輿論の理念は単に国会開設の方向へと継承されたのみならず、行政内部の「会議」として長く存続し、代表制議会と異なる機能を果たしていたことを明示した。それらの成果は、すでに査読論文として刊行された。 他方、新しい試みとして、国会に先立ち展開されていた地方議会そのものに注目して、従来地方議会の運用において重要な役割を果たしていたとされている府県会常置委員を考察してみた。制度的に行政と議会の双方の性格を有していた常置委員の制度制定と改正、その職権の形成・発展過程、そしてその人的構成について、全府県を対象とする調査を行ってきた。まだ調査の途中ではあるが、地方自治研究にとどまらず、議会そのものの近代日本での展開過程といったような政治文化論的な示唆も得られる見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
二つの意味において、計画以上に進展しているといえるのではないかと考える。 一つ目は、予定の課題を無事に完成して公表し、新たな課題についても、論文としてまとめられそうな段階に至ったからである。 二つ目は、当初予想している研究意義よりも、大きな意義を見出せたからである。本研究は当初、従来町村を中心に展開されてきた地方自治成立史の研究に、中央政府と一体視されがちな府県を独立の考察対象を見ることによって、中央政治と地域社会とのつながりを明らかにすることを目指していたが、2019年度の成果を踏まえてみれば、地方自治成立史に貢献するのにとどまらず、幕末維新期に形成されていた意思形成の慣行と、西洋から流入した議会制度との交錯が、近代日本の意思形成に何をもたらしたかという、より広い視野での問題提起もできるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、府県会常置委員の研究を完成させること。具体的にいうと、引き続き各府県の議会史、新聞を調査すること、常置委員を中心とする府県会の運用方式と、その後の府県参事会および国会の運用方式とを比較してみることによって、現時点で見出した結論を補強しつつ、長いスパンにおいて府県会の実践の意義を総括する。 次は、研究全体をまとめる上で必要な補足の章節を完成させること。 最後に、研究自体をより大きな視野のもとに位置づけるためには、特にヨーロッパ諸国との比較研究が欠かさないものであり、西洋史研究の最新の成果を把握し、ヨーロッパ諸国での地方制度ないし議会制度の具体的な展開が、日本のそれとの関係性を考察しようとする。
ただし、新型コロナウィルスの感染による移動/利用制限により、本研究の遂行にあたってもっとも重要なプロセスたる地方への史料調査が当面難しくなることが予測される。これまで、主な史料は蓄積できたが、一部補足の必要がなおある。各館の利用規定の変化を見守りつつ、できる限りの調査をしたいと考える。
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