吃音者対象の調査は2回実施した。1つ目の調査では,吃音と併存する障害(注意欠如・多動症,自閉スペクトラム症,社交不安障害)が吃音者の就労困難感に与える影響について検討した。自助団体を介して調査協力を行い,成人吃音者110名を分析対象とした。調査協力者の21.1%,12.7%,42.7%がそれぞれADHD,ASD,SADの疑いが見られ,これらの協力者は就労困難感を強く感じていることが分かった。そのため,併存する障害にも注目して評価を行う必要性が示された。 2つ目の調査では,就労状況や併存する障害が吃音者のQOLに与える影響を検討した。対象は成人吃音者30名であった。吃音者のQOLを測定するOverall Assessment of the Speaker’s Experience of Stuttering(OASES)の総合スコアを従属変数として重回帰分析を行った結果,その予測因子として「就労場面の支障」「就労場面の回避」「就労場面の否定的認識」「コミュニケーション態度」「ADHD不注意」が抽出された(R2=.895)。就労に対する支援や介入が成人吃音者のQOL向上に重要であるということが示唆された。 非吃音者を対象とした調査では,吃音者の就労に対する社会的な態度や認識を検討するため,非吃音者671名に質問紙調査を行った。「吃音は昇進を妨げると思う」などの選択肢に対して,「そう思う」と答えた協力者も多く,いずれの設問においても否定的に認識している協力者が多いことが分かった。回答者の基本情報でクロス集計を行うと,吃音者への接触経験の有無で有意な差が見られ,吃音者を職場で知っている協力者の方が良好な態度を持っていた。本調査より,国外の研究と同様に吃音者への就労の否定的な認識を非吃音者が抱いていたこと,否定的な認識は吃音者への接触によって改善する可能性があることが示唆された。
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