研究課題
本研究の目的は、沿岸域や半閉鎖性海域に広く分布する海草アマモ(Zostera marina)によって形成されるアマモ場における複雑な動物―植物間の相互作用が、塩分によるストレス勾配に影響を受けていることに着目し、(A)大雨などの攪乱によって勾配が変化した場合に生物間相互作用がどのように改変され、生態系機能に影響をおよぼすのか、および(B)北海道東部の厚岸湖や能取湖、北欧のバルト海と北海などさまざまな空間スケールで存在する塩分勾配において非生物要因とアマモ場生物の関係がどのように変化するかの二つを室内実験、野外調査、生態系モデル解析によって解明することである。当該年度は、(A)の攪乱が生物間相互作用にあたえる影響を明らかにする室内実験を主に行った。厚岸湖と能取湖のアマモ場でアマモと植食性巻貝(Lacuna decorata)を採取し、室内で異なる塩分変動をシミュレーションした実験区で飼育した。一定期間後に動植物の状態や生存率、生物間相互作用の指標として摂食量などを測定し、実験区間で比較した。また、動植物の生存環境の安定性と塩分ストレスに対する耐性の関係についても明らかにした。くわえて、(B)については、北海沿岸に位置するスウェーデンの研究機関であるヨーテボリ大学の臨海実験所にて、受入研究者との打ち合わせや施設見学、フィールドの視察などを行い、次年度にむけての準備を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
当該年度は、主にアマモ場における塩分変動が動植物群集の生物間相互作用に与える影響を検証する室内実験を行った。実験については、計画どおりに生物の採集や実験シス・テムの構築、実行を円滑に行えたこと、また当初は次年度に予定していた実験結果の解析や学会発表も今年度中に行えたことや論文執筆にも進めていること、さらに実験生物を採取した厚岸湖と能取湖を含む北海道東部のアマモ場における塩分勾配と生物群集の関係を論文としてまとめられたことから計画以上に進展しているといえる。さらに、次年度の調査・実験のためのスウェーデンでの打ち合わせやバルト海・北海のフィールドおよび施設の見学も予定通りに行い、下準備を進めることができた。
最終年度である令和2年度は、(B)の異なる空間スケールで存在する塩分勾配とアマモ場群集の関係を検証するために、スウェーデンのヨーテボリ大学を拠点にして、北海からバルト海にかけての塩分勾配沿いのアマモ場において生物採集および室内操作実験を行う予定である。コロナウイルスの感染拡大のために予定を変更せざるを得ない可能性もあるが、秋ごろからの渡航を目指して、渡航までに調査や実験デザインの確立、機材準備、オンライン会議システムを用いての受入先との調整などを進める。また、(A)の実験結果についての論文執筆をすすめ、研究結果の発信を行っていく。
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Ecological Research
巻: 35(1) ページ: 61-75
10.1111/1440-1703.12086