研究課題/領域番号 |
19J10368
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
千坂 知世 大阪大学, 国際公共政策研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | イラン地域研究 / 選挙管理 / 権威主義体制 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、イランの対外政策決定における国内政治要因を明らかにするものであった。1年目にあたる当該年度は、資料収集を目的として、2019年4月~2020年2月の期間、テヘラン大学法政治学研究科を受入れ機関としてイランに滞在し、文献収集やインタビューなどの現地調査を行った。その結果、対外政策に関しては仮説を実証するための十分な事実を確認できなかった。他方、国内政治に関しては、選挙運営の制度設計とその運用に関する資料を予想以上に収集することができた。 そのため、事実に基づき分析枠組みを修正するという作業を行った。具体的には、イランにおける外交と内政の連関から、選挙管理制度の構造へ、とイラン政治を分析するための枠組み構築の方針を修正した。これまで明らかになったイランの選挙管理制度の特徴は、次の2点にまとめられる。 1)選挙管理制度の設計 イランの国会選挙法、国会選挙法実施規則、監督者評議会による国会選挙の監督法など法律を参照したところ、イランの国会選挙の管理体制は二元化されていることが明らかになった。すなわち、内務省が管轄する実施部門と、監督者評議会が管轄する監視部門が、選挙管理プロセス(選挙前、選挙活動、投票、選挙後)のほぼ全ての段階において、重複する業務を担うことが規定されていたのである。また、監視部門は、フランスをはじめとする先進民主主義国でも設置されているが、イランの監視部門は、独立した機関ではなく、最高指導者の任命ポストであり、実際に選挙管理業務も行う、という特異性があることが分かった。 2)実施部門の派閥政治 内務省が大統領の任命ポストであることから、政権毎の実施部門の人事を確認したところ、政権の政治派閥が変わると、選挙実施部門(選挙管理委員会)の人事も大幅に変更されていることが確認できた。このことから、実施部門の活動は、政権の派閥の政治選好の影響を受けやすいことが分かる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査を通して、分析枠組みの修正をする必要が生じたため、上半期は予定よりもやや遅れていた。他方、イラン特有の選挙管理制度の確認と、それに基づくイラン政治を分析するための枠組みの構築は、今のところ順調に進んでいる。なお、選挙管理プロセスの一つである立候補資格審査に関して、監督者評議会が発行した書籍『監督者評議会:選挙に対する監督』(2018/9)の一部を訳出し、監視部門の選好と役割についての論文を『イラン研究』(大阪大学大学院言語文化研究科発行)で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、イランの選挙管理体制の特徴は二元化されていることである点を確認することができた。今後の研究では、その二元構造が、実際にイランにおける選挙管理の質に対して、どのような影響を及ぼしているのかについて考察する計画である。その際、選挙研究一般では選挙管理機関についての研究が数多く蓄積されているため、一般的な選挙管理体制と比較する形で、イラン独自の制度設計をまとめ、研究ノートとして発表する予定である。また、イランにおける選挙の質を考察することは、新しい試みであるため、定義と観察方法を慎重に検討する必要がある。この点に関して、選挙の質を扱う政治学の研究や権威主義体制における選挙に関する先行研究を参照しながら、分析を進める予定である。
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