研究課題/領域番号 |
19J10382
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新田 克章 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 放線菌 / アクチノロージン / メタボロミクス / トランスクリプトミクス / 環状アデノシン一リン酸 / 修飾塩基 |
研究実績の概要 |
本研究では,抗生物質を生産する二次代謝の誘導能および抗生物質の生合成能の異なる放線菌Streptomyces coelicolor菌株を複数株用意し,それら菌株のメタボローム解析(代謝物網羅解析)およびトランスクリプトーム(遺伝子発現網羅解析)を行った.その結果,環状アデノシン一リン酸が抗生物質(本研究ではポリケチド抗生物質:アクチノロージン)の生産時期および生産量との間に強い相関関係を有することが示されたことに加え,環状アデノシン一リン酸を合成する酵素をコードする遺伝子の発現量が増加していることが示された.そこで環状アデノシン一リン酸の抗生物質生産への影響を精査するため,環状アデノシン一リン酸およびその細胞膜貫通型アナログ体であるブクラデシンを放線菌培養培地に添加した結果,環状アデノシン一リン酸がいくつかの抗生物質の生産量を増加することが示された.本知見に関連して,環状アデノシン一リン酸が放線菌Streptomyces coelicolorにおいて抗生物質生産量を増加させる原因つまりメカニズムを特定するため,本研究では環状アデノシン一リン酸を培養培地に添加した際のメタボローム解析およびトランスクリプトーム解析を行い,その結果として,メタボローム(代謝物量)レベルでは核酸塩基の量の増加およびトランスクリプトーム(遺伝子発現量)レベルでは修飾塩基合成遺伝子の発現量増加が観測された.上記の結果から環状アデノシン一リン酸が放線菌の細胞内において,核酸塩基の量を増やすと共に,修飾塩基の合成遺伝子の発現量を増加させることで抗生物質生産経路の遺伝子を高発現させている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,抗生物質の生産量の異なる放線菌株のメタボローム解析(代謝物網羅解析)を行うことで抗生物質生産に重要な代謝物(環状アデノシン一リン酸)の特定に成功した.本知見の作用機序(メカニズム)を解明するために,当初は予定していなかったトランスクリプトーム解析(遺伝子発現網羅解析)を行うことで,異なる観点からの遺伝子発現レベルの情報を取得し,その作用機序を説明する仮説を提唱した現在は,その仮説の証明を目指している.しかしながら,当初予定していたゲノムスケール代謝モデルの代謝物データによる予測精度改善は未だ達成しておらず,その原因は代謝モデルに提供するデータ情報量の不足が懸念された.そこで現在は,代謝物の絶対定量データとトランスクリプトーム解析の両データを代謝モデルへ統合することで予測精度の改善を試みている.また環状アデノシン一リン酸の影響を特定の抗生物質にのみ精査を行っており,その一般性を確認するため,他の抗生物質の生産への影響を精査する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,「環状アデノシン一リン酸の他抗生物質の生産への影響の精査」,「環状アデノシン一リン酸が抗生物質生産を増加させる作用機序(メカニズム)の特定」および「オミクスデータのゲノムスケール代謝モデルへの統合による,ゲノムスケールでの放線菌代謝の理解」の3つを進める予定である.上記の目標を達成するため,「環状アデノシン一リン酸を培地に加えた際の,培地成分の精密質量分析計による分析」,「現在までに行ったオミクス解析によって提示したメカニズムを説明する仮説の証明」および「メタボローム解析(絶対定量データを含む)およびトランスクリプトーム解析データのゲノムスケール代謝モデルへの統合」の3つを行う予定である.
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