本研究は,指示忘却現象の検討を中心に,ワーキングメモリ過程を能動的に制御する能力について検討を行う。今年度は以下について検討した。 (1) ラットを対象に,課題遂行にワーキングメモリの活用が必要となる8方向放射状迷路課題遂行時の記憶間の干渉が生じる場面において,干渉を低減するような手がかり使用の方略を用いるかを検討するために,意図した特定の迷路外手がかりを利用させるための条件について検討した。8方向放射状迷路の周囲に,迷路外手がかりとしてそれぞれ4種の物体刺激のからなる2種の刺激セットを用いた。学習段階で進入しなかったアームの選択を求める課題において,ラットは両刺激セットに対して75%以上の正反応率を示した。一方で,迷路外手がかりとしての物体刺激セットの有効性を確認するために,学習段階とテストの間に迷路を回転させたところ,正反応率はチャンスレベルにまで低下し,上昇しなかった。ラットは物体刺激セット以外の手がかりを用いて課題を遂行した可能性が示唆される。順向性干渉の解除に対する迷路外手がかり変更の効果について検討するためには,意図した迷路外手がかり以外の手がかりの利用可能性をさらに低減する条件について検討する必要がある。 (2) 異なる質感をもつ2種類の床材を後のテストの有無を信号する指示手がかりとして,能動的に記銘処理を制御する可能性についての検討を試みた。以前の検討において,記憶項目として餌の違いを用いたものの,ラットは餌の違いに基づいて課題を遂行しない可能性が示唆された。そこで本研究では項目同士の違いをより大きくするため,餌の有無を記憶項目として使用した。学習段階で餌がなく,後のテストを信号する床材のあったアームへの進入を求める課題において,高い正反応率の個体が認められている。
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