研究実績の概要 |
本研究の目的は、ドイツにおける倫理・道徳教育科目をめぐる教授学的論争とその授業構想・実践の内実を明らかにすることである。 2019年度には、ドイツのボン大学の教師教育・研究センターに約半年間滞在し、ドイツの「価値教育」(Werterziehung)を専門領域の一つとするシュタンドップ(Standop,J.)教授から定期的に研究指導を受けることができた。 具体的には、学校における「倫理授業」(Ethikunterricht)ならびに「価値教育」についての議論に焦点化し、資料収集と文献精読・分析を行った。渡独前である上半期には、その途中経過を「90年代以降のドイツにおける価値教育 (Werterziehung) に対する教授学的批判」とのタイトルで、日本教育学会第78回大会において発表した。また、この発表について、渡独中にシュタンドップ教授ならびにハイト(Helmut,H.)教授から、指導・助言と追加の資料提供を得ることができた。 加えて、シュタンドップ教授の紹介で、ラデンティン(Ladenthin,V.)教授からの資料提供が得られた。彼は1999年に「授業科目として倫理」(Ethik als Unterrichtsfach)というシンポジウムにおいて講演し、その後、価値教育としての倫理授業について論文集を執筆・監修するなどして、このテーマを中心的に取り上げてきた。彼の助言の下これらの資料を検討すると、上記のシンポジウムや論文集において、多くの研究者が学校における価値教育としての倫理授業を論じる際に、ペッツェルト(Petzelt,A.)ら新カント派の理論、とりわけ「知識」(Wissen)と「態度」(Haltung)の活動形式の差異と接続の問題についての理論を参照しているということが明らかとなった。
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