研究課題/領域番号 |
19J10568
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
外山 裕一 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ハイパー核 |
研究実績の概要 |
2019年6月に、東北大学電子光理学研究センター(以下ELPH)において、新規開発した寿命測定用タイミングカウンターTDLと、既存の飛跡測定用ドリフトチェンバー(VDC)からなる崩壊パイ中間子測定用検出器のテストを行った。そこで取得したデータを用いて、新たに飛跡再構成アルゴリズムを開発・実装し、本実験に向けたハードウェア、ソフトウェア両面の準備を推進した。解析の結果、飛跡再構成が期待通りの位置分解能(RMS~0.5 mm)で行えることを確認した。また、同実験で既存の光子標識化装置の一部のカウンターが放射線損傷により故障していることが明らかとなったため、光子標識化装置をBSTリングからアンインストールした。現在新たな光子標識化装置を設計中である。 さらに、K中間子同定用エアロジェル検出器のプロトタイプを作成し、2019年12月にELPHにおいてテスト実験を実施した。本実験の遂行のためには500~1000個の統計でハイパー核生成事象を測定する必要がある。しかしデータ収集系の動作レートは2kHz程度に限られているため、1、2か月程度の現実的な加速器実験期間で目標を達成するためにはトリガーレベルでバックグラウンド事象を除去する必要がある。そこで閾値型のチェレンコフカウンターを用いてオンラインでバックグラウンドを除去する。テスト実験によって、バックグラウンドとなる陽電子、パイ中間子生成事象を95%以上の除去可能であるとの見積もりを得た。今後はこのテスト実験で得られたデータをもとに実機検出器の設計・製作を行う予定である。 これらの検出器テストで得られた性能をインプットとして本実験のより現実的なシミュレーションを行い、三重水素ラムダハイパー核崩壊事象の収量の見積もり、達成可能な寿命測定精度を求めた。その結果50日程度の実験を行うことで統計誤差±10psの精度を達成可能であるとの結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は崩壊パイ中間子測定用測定器の製作を行い、実際の運用環境であるELPHの第二実験室実光子ビームラインでの性能評価実験を行うことができた。ビームテストによってハードウェアだけでなく、解析ソフトウェア開発に関しても一定の成果を上げることができた。 ただしビームテストの中で、入射実光子のエネルギー、生成時間を測定するための検出器である光子標識化装置の一部が放射線損傷によって本来の性能を発揮していないことがわかった。電子加速器間近の放射線レベルが3年以上前に光子標識化装置を設置したときの予想よりはるかに高かったことは予期しえないことであり、研究計画に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
放射線損傷を抑制し、万一の故障の際にも対応が可能なようメンテナンス性に優れた新たな光子標識化装置の設計・製作を行う。さらに必要となるK中間子同定用の検出器等を製作し、2020年10月を目途にELPHにおいて加速器を用いた性能評価実験を実施する予定である。 またELPHでNKS2グループによって2010年に取得され、解析が途中で止まっていた重陽子標的を用いたデータを再解析し、ダイバリオン状態の探索を進めており、既に一定の成果を得ている。 本研究は三重水素ラムダハイパー核寿命測定を超えて研究を展開していく。
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