新型コロナウイルス感染症の影響により大学構内への立ち入りが制限される事態となり、特に現場での作業を必要とする検出器の新規開発に深刻な影響を与えた。特に前年度の実験で放射線損傷の影響が明らかとなった光子標識化装置に関しては、2020年度中にコミッショニングまで完了予定であったところが、制作・コミッショニングを2021年度に持ち越すことになった。 これらの状況を鑑み、大学構内への立ち入りを必ずしも要しない、既存のデータの再解析を中心として研究活動を行った。特に2010年10月に東北大学電子光理学研究センターにて実施した実験データについて、γd→dπ^+ π^-反応に着目して解析を行った。この実験は実光子ビームを液体重水素標的に照射し、反応後の複数の荷電粒子の運動量ベクトルを大立体角磁気スペクトロメータ・NKS2で測定するというものであり、中性K中間子の生成閾値近傍での反応機構の研究を主な目的として実施された。しかし、荷電粒子2つ以上がNKS2の最外部検出器に到達したという条件のみを課してアンバイアスなデータ収集をしていたため、データ中にはγd→dπ^+ π^-反応をはじめとする様々なチャンネルのハドロン生成事象が含まれる。γd→dπ^+ π^-反応には中間状態に核子とΔ粒子の共鳴状態、いわゆるダイバリオン状態が現れる事象が含まれていると期待され、再解析によって興味深い結果を得られる可能性があった。そして排他的測定であることを利用した運動学上のイベント選別などを行い、背景事象を十分に抑制したうえでγd→dπ^+ π^-反応事象を抽出することに成功した。その結果、重陽子とπ中間子の不変質量分布にNΔ共鳴状態を示唆するエンハンスを確認できた。終状態における重陽子の放出角度分布などからこの共鳴状態と思われるピーク構造の生成機構に関するさらなる考察を進めている。
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