研究実績の概要 |
フィロウイルス科に属するエボラウイルス(EBOV)やマールブルグウイルス(MARV)は、人を含む霊長類動物に重篤な出血熱を引き起こす。フィロウイルスの自然宿主として、コウモリが有力視されている。近年、EBOVとMARVの宿主域が解明されてきている。一方、ヨーロッパの食虫コウモリ(Miniopterus schreibersii)から発見されたLloviu virus(LLOV: 既知のフィロウイルスとは分子系統学的に異なる新種のフィロウイルス)(Negredo et al, PLoS Pathog, 2011)の宿主域は不明なままであった。 フィロウイルスの表面糖蛋白質(GP)は細胞侵入を担う分子である。フィロウイルスのGPを纏ったシュードタイプウイルスを用いて、各種コウモリ由来の培養細胞のフィロウイルスに対する感受性を比較した結果、Miniopterus sp.由来の細胞株(SuBK12-08)はLLOVに対する感受性が顕著に高く、EBOVに対する感受性が低い事が判明した(Maruyama et al, J Virol, 2014)。本研究では、SuBK12-08細胞が示すLLOVに対する宿主特異性を決定する分子機構を解析した。 前年度より、GPとレセプターの相互作用に着目し、解析を行っている。令和2年度は、変異型のNiemann-Pick C1(NPC1)や変異型ウイルスを用いた実験を行うことで、LLOVの宿主域決定に関与する詳細な分子機構を解析した。その結果、NPC1の416番目のアミノ酸残基(リジン)がLLOVとEBOVに対する異なる細胞感受性に関与することが分かった。宿主域決定に関与するGPのアミノ酸残基も明らかになり、SuBK12-08細胞が示すLLOVに対する宿主特異性はNPC1のループ1構造とGPの相互作用によることが推測された。
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