研究課題
イネの生産性向上には、光合成能力の強化は不可欠な課題である。炭酸固定酵素Rubiscoは現在の大気条件における最大光合成速度の律速要因であり光合成能力強化の有力なターゲットであるが、Rubiscoを過剰生産させたイネでは、期待されたほどの光合成速度の向上は見られなかった。これは、生体内で機能する活性化されたRubiscoの割合(Rubisco活性化率)が低下したことが原因だと考えられた。そこで、本研究ではRubiscoとともにRubisco活性化を担う酵素Rubisco activase(RCA)を同時過剰生産させることで光合成能力の強化、および個体生育の改良を試みる。令和元年度はRubiscoとRubisco activaseの同時過剰生産イネの作製、および選抜を行い、その光合成機能の解析を行った。Rubisco過剰生産イネとRubisco activase過剰生産イネを交配させることで同時過剰生産イネを作製し、計5系統選抜した。選抜した系統は、F2、F3世代においても、Rubisco量、RCA量が安定して増加していることを確認した。Rubisco・RCA同時過剰生産イネにおいて、光飽和条件におけるRubisco活性化率を測定したところ、いずれの系統でも野生型イネと同レベルまで回復していることが確認された。しかしながら、葉温25℃条件において、同時過剰生産イネの光合成速度に有意な変化は認められなかった。一方、夏場のほ場環境に相当する高温条件(葉温36℃)においては、現在の大気CO2濃度における光飽和光合成速度が約15%向上していることが確認された。これらの結果は日本植物生理学会、作物学会にて報告した。また、現在、原著論文執筆を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
RubiscoとRubisco activaseの同時過剰生産イネの作出を当初の予定よりも早く終えることができたため、令和元年度は、F2、F3世代において光合成機能の評価を行うことができた。また、当初の研究計画では予定していなかったが、光合成の温度依存性についての実験を行うことで、高温環境において、作出した同時過剰生産イネの光合成速度が明確に野生型イネよりも高いことを見出すことができた。これらの結果は、イネの光合成改良に向けて、学術的に非常に価値のある成果だと言える。これらの研究成果は、既に日本植物生理学会年会、および作物学会講演会にて発表し、現在、原著論文の執筆を行っている段階である。また、平成30年度に行ったRubisco activase過剰発現イネの作製と、過剰発現によるRubisco量への影響の評価実験についての論文を執筆し、Inter. J. Mol. Sci.にて発表した。また、共著として、本研究とも関連のある論文を1報発表した。以上のように、当初の想定より研究が早く進み、光合成機能の向上も確認できたこと、原著論文として研究成果が発表できたことから、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
令和2年度は、作出したRubisco・Rubisco activase同時過剰生産イネについて、人工気象室における栽培試験を実施し、光合成機能の改変によるイネの生育への影響を評価する予定である。この時、高温環境で明確な光合成能力の変化が確認されていることから、複数の温度環境での栽培試験を行い、経時的な生長解析、バイオマス生産の解析を行う予定である。また、適温条件(25℃条件)において、明確な光合成速度の違いが見られなかった原因について、解析を進める予定である。光合成機能について、炭酸固定速度だけではなく、電子伝達系の光化学系I、IIの各種パラメーターを同時解析する手法を用いて、光合成系全体の評価を行う。原因と考えられる候補が確認された場合には、新たな光合成改良ターゲットとして詳細に解析を行う。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 21 ページ: 1626
10.3390/ijms21051626
Nature Food
巻: 1 ページ: 134-139
10.1038/s43016-020-0033-x