研究課題/領域番号 |
19J10800
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
門屋 俊祐 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 胃腸炎ウイルス / 集団遺伝学 / 水インフラ / 消毒 / 階層ベイズモデル |
研究実績の概要 |
胃腸炎ウイルスによる感染症被害は、水処理場等の高度な衛生設備を有する先進国でさえ未だ制御しきれていないのが現状である。水処理場で一般的に使用されている消毒に対して、高い変異速度を示す胃腸炎ウイルスが適応していることにより、ヒト社会への胃腸炎ウイルスの侵入を許している可能性がある。本研究では、集団遺伝学に基づいて胃腸炎ウイルスの代表であるロタウイルスの消毒剤感受性が変化するかどうか検証し、そのメカニズムの解明を試みた。さらに、ウイルス種の遺伝子型間の消毒剤感受性差を考慮した予測不活化モデルの構築を行なった。 胃腸炎ウイルスの代表であるロタウイルスの消毒剤感受性の変化を検証するため、組織細胞を用いて二つの祖先集団のロタウイルスの連続培養を10回行なった。培養前に100倍希釈を行う系及び塩素消毒を行う系を用意し、各種表現型、塩素感受性及び集団遺伝学的特性の変化を追跡した。その結果、塩素への曝露の有無にかかわらず、ロタウイルスの塩素感受性は無作為に変動したが、塩素低感受性集団の外殻タンパク質の塩基多様度は有意に高いことが明らかとなった。常微分方程式による進化シミュレーションからは、塩素感受性の低下は低頻度個体間の「協力」(例えば凝集体形成)に起因することが示された。本結果は現在、論文投稿準備中である。 消毒剤の不活化効果は水中の夾雑物等の水質の影響を受けるため、水処理場毎に適切な消毒条件を決定し、放流水質を適正に管理する必要がある。本研究では、水質情報を説明変数とした遊離塩素による胃腸炎ウイルス予測不活化モデルを構築した。さらに、ウイルス種の遺伝子型間の消毒剤感受性差を考慮した階層ベイズモデルにより予測精度が向上し、構築したR及びStanコードを用いて処理場従事者も簡単に予測を行うことを可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、胃腸炎ウイルスの集団遺伝学的側面を考慮した水処理技術の進展による感染症制御を目的としており、研究一年度目においては、ロタウイルスの集団遺伝学の基礎的知見を集積するとともに、塩素消毒に対する感受性が変動する要因が遺伝的多様性に依ることを突き止めることに成功した。また、塩素感受性は、遺伝的多様度が高じたときに集団中に存在する低頻度変異個体が相互作用することによって減少することを明らかにした。処理場従事者が処理水中の胃腸炎ウイルス濃度を管理することのできる予測モデルを構築することにも成功しており、さらに、ウイルス各種の遺伝子型間の感受性差をモデルに組み込むことで予測精度の向上につながった。これらの結果から、本研究は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年度目においては、一年度目で得られたロタウイルスの集団遺伝学的知見をもとに、水インフラが与えるロタウイルス患者数への影響(水の介入効果)の定量手法を開発する。水の介入効果は、ウイルスに対する感受性者、感染者、免疫獲得者の時間変化を記述する感染症モデルを用いて推定する。感受性者から感染者に推移する確率「感染力」がウイルスの遺伝的多様性による影響を受け、且つ水道普及率などの水の介入効果の関数として扱う。この感染症モデルを実際の患者数データにフィッティングすることで、現状の水の介入効果を同定することが可能となり、今後の水インフラの進展に必要な介入効果が明らかとなる。
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