本研究は、強相関電子系における特異な揺らぎを起源とした相転移現象の解明とそのための数値計算手法の開発である。本年度は、第一原理計算法、動的平均場法、密度行列くりこみ群法を用いて、特に以下の3課題に取り組んだ。 1. 1次元擬カゴメ鎖における有効スピン1鎖の出現と分極の分数量子化: フラストレートした低次元量子系では、基底状態近傍でマクロな数の状態が縮退しており、その縮退を解くために秩序化するというorder-by-disorder機構が古くから知られ、現在も精力的な研究がなされている。本研究では1 次元擬カゴメ鎖の研究を行った。この模型は、現実に存在する物質、Ba3Cu3In4O12とBa3Cu3Sc4O12で実現していると考えられている。これらの物質は特徴的な温度-磁場相図を持ち、低温では磁場の印加によって反強磁性-スピンフロップI-スピンフロップII-強磁性という相転移を示す。この模型に関しては特定の点近傍での理論的な研究はあるが、全体像は明らかになっていなかった。物理量の解析から、この模型には3種類の磁性相と2種類の非磁性相が存在することを明らかにした。これらの性質は有効的なスピン1鎖とその分数量化によって説明できる。 2. 層状LiVS2において電子線照射下で現れる無秩序ジグザグ鎖分子のスローダイナミクス: 本研究では、層状化合物LiVS2に対し理論計算を行い、中間温度領域で出現する特異な長距離揺らぎを持つ相の研究を行った。この相はソフトマターの一種である柔粘性結晶に分類される特徴を示し、本研究は『無機柔粘性結晶』という新たな機能性材料開発の方向性を示すものである。 3. MoO2のLiインターカレートによる絶縁化の理論的研究: 本研究では、LiMoO2に対し第一原理計算と動的平均場法を組み合わせた計算を行い、MoO2へのLiドープにより生じる絶縁化の機構を明らかにした。
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