研究課題/領域番号 |
19J10823
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
眞榮田 麻友美 鹿児島大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | Aspergillus luchuensis / 麹 / バニリン / フェノール酸脱炭酸酵素 / フェルラ酸 / 4-ビニルグアヤコール / 泡盛 |
研究実績の概要 |
本研究は、泡盛古酒の香味成分バニリンの前駆体である4-ビニルグアヤコール(4-VG)の生成過程の解明を目的として行っている。 これまでに,Aspergillus luchuensis由来フェノール酸脱炭酸酵素(AlPAD)がフェルラ酸(FA)から4-VGへの変換(FAD活性)を触媒すること,AlPADが製麹中に発現・機能していることを明らかにしている。本年度は,AlPADの4-VG生成への寄与を明確にするためにalpad破壊株を作製し,静止菌体反応によるFAD活性および醸造中のFAおよび4-VG生成量を野生株と比較した。また,本条件での蒸留時の熱による4-VG生成への影響についても検討した。 alpad破壊株の作製は,アグロバクテリウム法を用いて行った。作製したalpad破壊株を用いて静止菌体反応を行った結果,野生株では経時的に4-VG生成量が増大したが,alpad破壊株ではほとんど検出されなかった。次に,製麹時間の異なる麹で仕込んだモロミ及び蒸留液中の4-VG量を測定した結果,野生株において製麹時間に伴い4-VG濃度は上昇した。alpad破壊株では製麹時間に伴い4-VG濃度は一定で,野生株と比較して4-VG濃度は著しく低かった。次に,本条件での蒸留時の熱による4-VG生成への影響を調べた結果,熱による4-VG生成への変換率は約12 %でその内の約1/6が蒸留液に移行していることがわかった。以上の結果から,製麹時間42時間以降の麹を用いた泡盛醸造において,4-VG生成におけるAlPADの寄与率は約8-9割と算出された。また,本条件での蒸留液時の熱による4-VG生成への寄与率は約3-7%であった。これらの結果から,泡盛醸造中の4-VG生成はAlPADが主要因であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は泡盛醸造中の4-VG生成にalpadがどの程度寄与しているのかを調べることを目的として行った。そのために,alpad破壊株を作製し,alpad破壊によるFAD活性の有無を静止菌体反応を用いて調べた。醸造中の4-VG生成への寄与については醸造試験を行い野生株と比較した。また,蒸留時の熱によってFAから4-VGに変換することが報告されていることから,本条件での蒸留時の熱による4-VG生成への寄与についても調べた。alpad破壊株はアグロバクテリウム法を用いて作製することができた。静止菌体反応では野生株においてFAD活性が検出されたが,alpad破壊株ではFAD活性が検出されなかったことから,FAD活性はAlPADにほぼ依存していることを確認できた。醸造試験では,モロミおよび蒸留液において野生株では製麹時間と伴に4-VGが増加したが,破壊株ではどの製麹時間においても4-VG量は一定で,野生株と比較して4-VG濃度は著しく低かった。これらの結果を基にAlPADの4-VG生成への寄与率を算出すると約8-9割であることがわかった。蒸留時の熱による影響では,熱による4-VG生成への変換率は約12 %でその内の約1/6が蒸留液に移行していることがわかった。このことから,泡盛醸造中の4-VG生成の主要因は黒麹菌由来のAlPADであり,その寄与率は約8-9割であることを明らかにすることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,米ぬか中の誘導物質の探索・同定と製麹時の遺伝子の転写解析の2つについて行う。 米ぬか中の誘導物質の探索・同定については,これまでの研究で,細胞壁成分リッチな米ぬかにはFA以外にAlPADを誘導する物質があることが示唆されている。米ぬか中のどのような物質がAlPADを誘導するかを調べることは,泡盛醸造における4-VG生成過程を明らかにする上で重要である。よって,米ぬか成分を各種クロマトグラフィーによって分画し,各画分についてAlPADの誘導性を調べ,各種機器分析により誘導物質の単離および同定を行う。 製麹中の遺伝子の転写解析については,これまでの研究において,製麹時間が長いほどAlPADの発現量が増加することが確認されている。しかし,どのようなプロセスによってAlPADが誘導されているのかはわかっていない。米ぬかによるAlPADの誘導実験によってFA以外の誘導物質の存在が示唆されており,米細胞壁の分解産物である各種オリゴ糖やFA含有オリゴ糖およびその他の分解中間産物が誘導物質となっている可能性がある。よって,製麹中の4-VG生成過程に関与が予測される酵素遺伝子について経時的な解析をRNA-seqにより行い,絞り込んだ酵素遺伝子から,4-VG生成過程に関わる遺伝子について,RT-qPCRによって定量的解析を行い,その発現量の変化を詳細に調べる。
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