光駆動イオンポンプKR2のナトリウムイオン輸送過程のタンパク質構造変化を解明するため、時間分解紫外共鳴ラマン分光測定を行った。観測された時間分解共鳴ラマンスペクトルから、ミリ秒付近でのKR2の反応中間体のタンパク質構造を明らかにした。KR2では、ミリ秒の時間領域でナトリウムイオンの取込と放出が起きるため、この反応中間体の構造を知ることはナトリウムイオン輸送機構を解明するうえで重要である。さらに変異体を用いた実験から、この反応中間体の生成・消滅に伴い、タンパク質内部のTrp残基周辺の疎水的な環境が変化することが分かった。これらの結果をもとに、KR2がナトリウムイオンを輸送するために、細胞膜を介した過渡的なチャネルをタンパク質内部に形成するモデルを提案した。興味深いことに、プロトン輸送状態にあるKR2で同様の測定を行ったところ、類似した構造変化が観測された。この結果は、イオンを輸送するための過渡的なチャネル形成は、輸送されるイオンには依存しない共通の機構である可能性を示唆する。
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