研究課題/領域番号 |
19J10896
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
林 憲哉 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 上流ORF / 新生ペプチド / リボソームの停滞 / マグネシウム / 翻訳制御 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
(1) マグネシウムと上流ORF のペプチドがリボソームを停滞させる機構の解明 1-1 ある遺伝子の上流ORFにコードされるペプチドがマグネシウムに応答して引き起こすリボソームの停滞について、マグネシウム以外の無機イオンの影響を調べた。試験管内翻訳系においてリボソームの停滞の指標となるペプチジルtRNAの蓄積量を調べて停滞の強度を評価した。マグネシウム以外のイオンを添加してもペプチジルtRNAの蓄積は起こらなかったことから、リボソームの停滞はマグネシウムにより特異的に誘導されることが示唆された。さらに、再構成試験管内翻訳系においてもマグネシウムによるリボソームの停滞が再現されることを見出した。この結果から、マグネシウムは翻訳複合体に直接作用することでリボソームの停滞を誘導すると考えられる。これはマグネシウムを感知して遺伝子発現を制御する機構を植物において初めて示した成果である。 1-2 上流ORFの保存されたペプチド配列の中でリボソームの停滞に重要なアミノ酸残基の同定を行った。それぞれのアミノ酸残基をアラニンに置換し、上流ORFにおけるリボソーム の停滞による翻訳抑制を一過的発現系で評価した。結果、上流ORFペプチドの終止コドン直前のプロリン残基とその9アミノ酸上流のトリプトファン残基がリボソームの停滞による翻訳抑制おいて特に重要な役割を果たすことを見出した。 (2) 無機栄養を感知して翻訳を制御する上流ORF の新規探索 情報生物学的手法により新たに同定された保存されたペプチド配列を持つ植物の上流ORFに関して、一過的発現解析により主要ORFの翻訳を抑制する能力があるかを調べた。無機イオンのトランスポーター遺伝子を含むトマトとポプラの12の遺伝子の上流ORFを解析し、6つの遺伝子の上流ORFにコードされるペプチドが主要ORFの翻訳を抑制することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) マグネシウムと上流ORF のペプチドがリボソームを停滞させる機構の解明 マグネシウムの作用とペプチド配列それぞれについて、リボソームの停滞における役割について研究を進めた。これによりマグネシウムは翻訳複合体に直接作用することを見出した。本年度の研究により、植物の重要な無機栄養であるマグネシウムがいかに感知され、どのように遺伝子発現を制御しているかを初めて示した。この点で大きな進展があったと言える。 (2) 無機栄養を感知して翻訳を制御する上流ORF の新規探索 本年度は翻訳抑制を起こす植物の上流ORFを新たに6つ同定した。この成果の一部は論文掲載されており、一定の進展があったと言える。 これらを総合し、「概ね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
(1) マグネシウムと上流ORF のペプチドがリボソームを停滞させる機構の解明 リボソームの停滞において重要なアミノ酸残基についてアラニン以外のアミノ酸への置換を行う。これによりリボソーム停滞における個々のアミノ酸残基の役割を考察する。 (2) 無機栄養を感知して翻訳を制御する上流ORF の新規探索 新たに同定した翻訳抑制を起こす上流ORFペプチドに関して、無機イオンの濃度変化により翻訳抑制能力が変化するかを調べる。
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