研究課題
核スピンのシングレット状態への量子符号化による、核スピン偏極の長寿命化に向けた数値計算研究を行った。液体中の核スピン偏極は、一般に最近接核スピンとの双極子相互作用によって数秒から数十秒の緩和時間によって熱平衡状態へと緩和してしまうが、双極子相互作用に耐性を持つシングレット状態へと符号化することで、緩和時間を数分から数十分まで伸ばすことができ、偏極核スピンの応用範囲を広げることができる。本研究では、核スピン緩和時間を量子化学計算(Gaussian)と分子動力学計算(Amber)を組み合わせた数値シミュレーションを行った。作成したプログラムでいくつかの分子の縦緩和時間計算を行い、高い精度で数値計算結果と実験結果が一致した。シングレット状態の緩和時間に対しては、実験結果と一致する分子と誤差を生じる分子が存在した。この結果に対して考察を行い、どのメカニズムが緩和に最も寄与しているかを明らかにし、より詳細に考慮すべきパラメータについても知見を得ることができた。この成果は、NMR討論会でポスター発表が行われ、ポスター賞を受賞している。また、本年度は室温超偏極技術の向上に向けて、NV中心を用いた室温超偏極実験も行った。NV中心とは、ダイヤモンド中に存在する欠陥中心の一つであり、隣接する炭素原子が窒素(N)と空孔(V)に置換されたものである。本研究では、これまで我々が行ってきた手法であるパルスDNP法で、NV中心によるダイヤモンド中13Cスピンの高偏極化を行った。同様の系でペンタセン分子を用いた安息香酸中13Cスピンの高偏極化実験を行った。異なる二つの系の結果を比較して、室温超偏極技術の向上に必要なパラメータについて議論し、高偏極化を目指したサンプル作製に関する知見を得ることができた。これらの成果は、国内外で学会発表を行い、論文がMagnetic Resonance誌に掲載されている。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Magnetic Resonance
巻: 2 ページ: 33~48
10.5194/mr-2-33-2021