研究実績の概要 |
本研究では、沈み込み帯火山の長期的な進化過程の解明を目指し、利尻火山を対象として代表的噴出物への年代挿入と深部情報の抽出を通し、活動の時間変遷を追跡することを目的としている。2020度は以下の成果を得た。 (1)中期活動噴出物の岩石学:これまでの分析結果をまとめ、活動中期のアダカイト質デイサイトの成因について、公刊するに至った。 (2)初期活動噴出物の岩石学:活動初期の初生マグマは活動末期の初生マグマよりNa/Kが高い一方、LREE/HREE比が低いことを明らかにした。さらにマグマ生成条件を推定した結果、前者のマグマは後者のマグマよりも低温・低圧条件下で生成していたことを示した。以上の結果から、活動末期のマグマは超臨界流体それ自体が初生マグマを生成していた(Kuritani and Nakagawa, 2016)のに対し、活動初期のマグマは超臨界流体から分離した水流体がマグマの生成を引き起こしたことを明らかにした。これらの結果についてはすでに論文を執筆しており、2020年度の早い時期に投稿する。 (3)沈み込み帯火山の長期進化に関する総括的議論:これまでの結果を基に、利尻火山の長期進化過程について包括的に議論した。利尻火山では、噴出率と噴出物組成の関係が認められ、両者は初生マグマ含水量の多寡が支配要因となっている地殻由来珪長質マグマの生成量で決定している。さらに、利尻火山直下ではスラブ由来流体が超臨界流体として放出しており、それらが臨界点を超えて上昇すると水流体とメルトに分離するが、初生マグマの化学組成および含水量は、マグマ生成に関与する流体相の違いを反映している。つまり利尻火山では、超臨界流体が水流体とメルトに分離するか否かが、マントルにおける初生マグマの生成から地表への噴出に至る各マグマプロセスを決定づける分岐点となっており、長期進化過程の支配要因であることを提案した。
|