研究課題/領域番号 |
19J11069
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 寛大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超新星残骸 / 粒子加速 / 検出器バックグラウンド / 半導体CMOS検出器 |
研究実績の概要 |
超新星残骸G359.1-0.5のChandraと「すざく」衛星によるX線観測データを解析し、粒子加速現場である熱的プラズマの物理状態を初めて明らかにした。私はこの成果を論文化し、アメリカの科学誌ApJに掲載された。 私はChandraチームの本拠地であるアメリカのHarvard-Smithsonian Center for Astrophysicsに4ヶ月間滞在し、Chandraの検出器バックグラウンド特性を徹底的に調査した。得た知見を踏まえ、渡航期間の後半ではスペクトル再現ツールの開発を完成させた。このツール開発はChandraの打ち上げから20年が経過して初めてなされた快挙だ。この成果は2019年12月にアメリカで開催された国際会議にて報告した。 超新星残骸が加速した宇宙線粒子が銀河系に供給されるタイムスケールを調べるため、私は約40個の天体の系統解析に取り組んだ。各天体の年齢と、閉じ込められた加速陽子のエネルギー量から、加速粒子が確かに年齢とともに銀河系に供給されていく事実を明らかにした。宇宙線の供給プロセスの理解は銀河進化の研究にとって本質的だ。この結果は2019年6月にギリシャで開催された国際会議にて報告し、日本の科学誌PASJに投稿した。 次世代X線衛星FORCEに搭載する半導体検出器XRPIXの検出器レスポンスの調査と、それを再現するシミュレータの開発を行なった。シミュレータの正しさを確かめるため、私は実験室にてXRPIXセンサを用いた放射線実験をし、センサの物理パラメータとして自然な値を仮定したシミュレーションが実験室測定の結果を説明できることを確かめた。この成果は2019年12月に日本・広島で開催された国際会議にて報告し、その会議のproceedings(査読付)を提出済みだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超新星残骸G359.1-0.5の熱的X線解析は、予定通り1年目の間に論文を投稿し、採択まで達成することができた。 本研究の最大の目的である超新星残骸の系統解析を通した宇宙線供給タイムスケールの研究は、元はガンマ線・熱的X線解析を全て一から自分が行う予定であった。しかしその重要性は低いと判断したため、文献値と自らの実測を合わせた結果を用いて系統解析を行い、これを1年目に終了させた。結果、確かに予想していた結果を導き、論文投稿まで完了させることができた。 本研究のもう1つの柱は次世代X線衛星FORCEに向け、検出器実験によるバックグラウンド削減の研究であった。しかしシールドよりも主検出器自体の最適化を進めることがより重要であると判断し、主検出器である半導体検出器XRPIXの検出器レスポンスの研究を行った。1年間で検出器レスポンスのシミュレータを完成させることができたため、今後はこれを活かすことができる。 超新星残骸の熱的X線解析の研究の過程で、なるべく不定性を削減するためには検出器バックグラウンドの正確なモデリングが重要と考えたため、当初の予定にはなかったものの、Chandra衛星の本拠地にて4ヶ月間の集中した研究を行い、完了させた。これも今後の熱的X線解析に非常に役立つ。
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今後の研究の推進方策 |
超新星残骸の系統解析と、XRPIXの検出器レスポンス研究の2つに関して投稿した論文の改訂に取り組み、採択まで達成する。Chandra衛星の検出器バックグラウンド研究と再現ツール開発に関する論文を投稿する。これらの成果については国際/国内研究会において何度か報告する予定だ。 超新星残骸の系統解析について、全ての天体に対して自らガンマ線・熱的X線解析をすることで、最新の統計を使い、系統誤差も最小に抑え、論文にて投稿した結果を改良する予定だ。 超新星残骸の宇宙線供給の時間発展を調べる際、各天体の年齢を正しく決定することが本質的にも関わらず、非常に難しいことが判明した。私は超新星残骸の最適な年齢推定方法を探る研究を行う予定である。従来行われてきた年齢推定方法はいくつかあるが、どれも確かめる手段がない。そこで、超新星残骸と中心天体である中性子星が存在する希少な系に着目し、中心天体の動くスピードと超新星爆発時の爆発中心の位置から、もっともシンプルな年齢を測る。これを従来の年齢推定方法と比較することで、年齢推定の較正を行い、一般の超新星残骸に適用する。爆発中心を算出するためには、爆発の噴出物の質量中心を熱的X線解析で推定する必要がある。これを従来の年齢推定方法と比較することで、年齢推定の較正を行い、一般の超新星残骸に使える手法を確立する。 一方、次世代X線衛星FORCEの検出器・シールドの最適な構成を探る研究を行う予定だ。検出器感度を上げる際に最大の難関となる中性子線のバックグラウンドを削減するための構成を調べる。2019年度に開発した検出器シミュレータを用い、中性子線に対する応答をCf線源を用いた実験室測定で確定させた上で、最適な検出器設計を探る。
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