近代の食生活の変化から、糖尿病の診断のための簡便なD-グルコース濃度の測定システムの開発が急務である。本研究では、ボロン酸と糖類の反応に関する反応論的基礎研究に基づいて設計した、糖類との反応が効率よく進行するピリジニウムボロン酸(PyB)部位と、糖類との反応によって劇的に色調が変化するオルトアゾフェニルボロン酸(azoB)部位を構造内に持つジボロン酸型比色D-グルコース定量試薬の開発を行った。 本年度は主にジボロン酸の合成とその評価を行った。 弱塩基性の水/メタノール混合溶媒中で、合成したジボロン酸はmMオーダーのD-グルコース、D-ガラクトースと反応し、溶液の色調が紫色からピンク色へと変化した。種々の分光光度法による測定から、D-グルコースとD-ガラクトースはジボロン酸構造内の二つのボロン酸部位との結合を介して、1:1錯体を形成することが確認された。つまり、構造内のPyB部位によって捕捉された糖類が、azoB部位へ閉環的に配位し、azoB部位のホウ素中心の構造が変化することで溶液の色調変化が生み出されることが示された。 pHが一定の条件下で、種々のリンカー構造を持つ一連のジボロン酸と糖類の反応の条件生成定数K’を測定した。その結果、リンカーの炭素数が減少するに従いD-グルコースとの反応のK’が増大し、一方で炭素数が多くなるに従いD-ガラクトースとの反応のK’が増大した。また、リンカーの構造の剛直性が高いとき、D-グルコースとD-ガラクトースを検出する感度が高くなることが分かった。つまり、リンカーの構造の選択によって、各糖類への選択性の制御が可能である。 上記の成果に加え、本研究から得られた知見に基づき、azoBによる溶媒分子やアニオンの検出能も併せて評価した。これらの特性は生体内における分子やイオンの挙動を研究するにあたって有用であると期待される。
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