研究課題/領域番号 |
19J11190
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
関 千賀子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 日本近世史 / 江戸幕府 / 風俗統制 / 町奉行 / 都市政策 / 遊廓 / 遊所 / 旧幕府引継書 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世江戸における遊所統制の実態を示す文献史料を網羅的に蒐集・分析する作業を通じて、①江戸幕府の役人は遊所・遊女をどのように認識して統制を行ったのか、②そうした統制は被統制者にいかなる影響を及ぼしたのか、③近世を通じて①および②の内実はどのように変化したのか(または、しなかったのか)の3点を考察するものである。 具体的には、江戸幕府が発令した遊廓(遊所・遊女)関係法令に関する幕府役人の評議文書を網羅的に分析し、公権力による統制とその変容過程について、江戸最大の遊所「吉原」を中心に研究を進めた。分析に伴い、まず、A:近世の各時期(前期・中期・後期・幕末期)に即して悉皆的に史料を蒐集・整理・再検討し各時期の特質を把握すること、次に、B:幕府の政策を藩が模倣する性格に着目して藩政の分析から幕政史料の僅少さに基づく情報の欠如を克服しつつ、従来解明されて来なかった幕府の動向を探ることとした。 2019年度の実施計画は、A:江戸町奉行所においてその執務の便宜を図るために市政上重要な法令や先例を類纂した行政史料や幕府役人や江戸の町人が残した日記史料・風聞書を中心とした遊所統制に関連するデータの採録、B:旧米沢藩(現在の山形県の南方に位置した藩)内の遊所統制に関わる行政史料および宿場町を中心とした地方史料の調査であった。また、Aの内容を踏まえた論文の執筆作業も同時並行的に進めており、その内容は「現在までの進捗状況」において言及する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた計画に沿って、おおよその作業が進んでいる。2019年度に実施した作業は、①論文執筆、②データ採録、③史料調査の3点である。 ①論文執筆…天保改革期江戸幕府による隠売女(江戸時代、公許の遊廓以外で違法な性労働に従事した女性)取締の実態を、国立国会図書館所蔵の旧幕府引継書類の分析を通じて考察したものである。本論文では、取締の命令を下す町奉行所役人(武士身分)のみならず、その命令を現地で執行する町名主(町人身分)の動向をも併せ見ることによって、官民双方の視座から当該期における風俗統制の実態を可能な限り詳細に描くことを目指した。未だ脱稿していないが、執筆は順調に進んでおり、2020年度には学術雑誌への投稿を開始する予定である。 ②データの採録…旧幕府引継書類の内、特別研究員採用以前から自身が着目していた史料群である「撰要類集」、「市中取締類集」、「江戸町触集成」から史料データを採録した。具体的には、遊所統制に関連する史料を重点的に集めた。 ③史料調査…①に関連して、江戸の都市行政に関連する史料調査を行った。それにより、Ⅰ大学や公共施設に所蔵されている既成の史料目録類、Ⅱ東京都における各自治体史の編纂過程で新たに発見された古文書、Ⅲ個人コレクションの中から重要な史料群を一定程度見出すことに成功した。2020年度より本格的な調査を開始する。また、B計画について、2020年度以降江戸と地方都市の比較研究を予定していることから、旧米沢藩領地域における史料調査も実施した。具体的には、旧米沢藩領内で宿場町であった町および山形大学において史料の所在および目録の調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、2020年度も国内での調査および学会での成果報告を行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響で先行きが不透明なため、今後の研究の推進方針も多少の変更を余儀なくされた。具体的には、B計画に関連して、再度山形県内での地方史料の調査を行う予定であったが、昨今の状況を鑑みて実施を見送ることとし、代わりに、2019年度中に収集したデータを元にした論文執筆に注力したい。 2020年度は、まず、2019年度にA計画で採録したデータから作成した論文を推敲の上、学術雑誌への投稿を開始する。その内容は、「現在までの進捗状況」に記した通りである。また、同論文の内容に関連して、天保期より前の時代である寛政期の遊所統制に関する論文も現在執筆の準備が整いつつある。上記2本の論文を研究成果として形にすることを2020年度の目標としたい。
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