研究課題/領域番号 |
19J11223
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井上 翔太 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ゼータ関数 / L関数 / 値分布 / 近似公式 / 中心極限定理 |
研究実績の概要 |
今年度の主要な研究成果はゼータ関数に対する新しい近似公式を証明し、それをゼータ関数の値分布の研究に応用したことである。この近似公式は古典的によく知られているSelberg-Tsangによる近似公式と、比較的最近に証明されたGonek-Hughes-Keatingによるhybrid formulaと呼ばれる近似公式を組み合わせたものである。この新しい近似公式は従来のものよりもゼータ関数の零点の寄与を計算する際に有用なものである。実際に、この近似公式を用いて零点の寄与を計算することで、Selbergの中心極限定理の大偏差の範囲に対するJutilaやRadziwillによる先行研究を一部改良し、Radziwillの予想やSoundararajanの問題に貢献する結果を証明した。 また本研究で得られた近似公式はゼータ関数の値分布論への応用以外にもいくつかの応用がある。例えば、その近似公式を用いることで、Riemann予想とゼータ関数の原始関数の値分布との同値性、素数のランダム性と零点の重複度との関係性などを証明した。この前者は藤井氏のRiemannゼータ関数の反復積分とRiemann予想との同値性に関する研究の拡張でもある。 また、今年度はL関数の値を成分とするベクトル値関数の値分布論の研究も開始した。このベクトル値関数の研究はL関数相互の関係性を理解することが目的である。前述のゼータ関数の近似公式は一般のSelbergクラスのL関数に拡張でき、それを用いることでSelbergの中心極限定理の大偏差はRiemannゼータ関数の場合と同様に証明することができる。本研究ではそれをさらにベクトル値関数へ一般化し、それを調べ、その分布関数が多変数の正規分布に従うことを示すことを目標として研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、ゼータ関数の零点の重複度、SelbergクラスのL関数に対するGonek-Hejhal予想、Selbergクラスの数論への応用、を調べることである。 零点の重複度に関しては、本研究計画の立案段階では予想もしていなかった素数のランダム性と関係性を構築することに成功し、これは零点と素数の新たな関係性を示唆するものである。 また、Gonek-Hejhal予想はゼータ関数のモーメントの予想に類似するもので、それはSelbergの中心極限定理の大偏差からのアプローチが有力であることがRadziwillやSoundararajanらによる研究により明らかにされていた。実際に、MilinovichはSelbergの中心極限定理の大偏差に類似した値分布に関する評価を証明することでGonek-Hejhal予想に対する研究を進めた。このようにSelbergの中心極限定理の大偏差を考えることはGonek-Hejhal予想に対する有力な研究方法である。そして本研究では研究計画立案段階では予想していなかった、Selbergの中心極限定理の大偏差の範囲を改良するという結果を証明することに成功し、それをSelbergクラスのL関数に一般化することもできた。この研究を基に、来年度でGonek-Hejhal予想をSelbergクラスに一般化することを試みる。 さらに、Selbergクラスの数論への応用についても、L関数の不変量と値分布を関係付ける論文を発表した。その研究は数論の問題として重要なSiegel零点の問題に関係するもので、本課題についても一定の成果を出すことに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
前述の研究をさらに進める。具体的にはL関数の値を成分とするベクトル値関数の分布関数をさらに理解するために、実部が1/2以外の領域での漸近挙動を調べる。また、値分布論にはより深い確率論への理解も今後必要であると考え、最近国内で活発に研究されているM関数に対する伊原、松本、梅垣、峰らの研究を参考に知識を深め、その方面での研究と、零点の重複度やGonek-Hejhal予想などの数論への応用で重要な問題たちを関係付ける研究を進めていく予定である。
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備考 |
個人ホームページ
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