研究課題/領域番号 |
19J11251
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
加納 遥香 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ベトナム / オペラ / 文化政策 / 表象 / 実践 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会主義体制下のベトナムにおいてヨーロッパ発祥の芸術形式であるオペラに基づいてベトナムの作曲家が創作した「ベトナム・オペラ」を対象とする。1960年代半ばから1980年代初頭にかけて複数の作品が創作、上演されており、近年再興の様相を見せているベトナム・オペラについてその事業に参画する様々なアクターに着目しながら文化政策と実践を明らかにすることを目的としている。2019年度には、①資料収集、②読解、③成果報告と意見交換、④分析の視点の精緻化を進めた。 ① 8~9月、12月にベトナムにおいて第三国家文書館、国家図書館、音楽学院図書館、オペラ関係組織での資料収集と関係者へのインタビュー調査、はじめてのベトナム・オペラ作品とされている《コー・サオ》(1965年初演)の物語の舞台となったベトナム北西部ソンラーでの調査を行った。また10月の《彫刻師》再演(1971年初演)に際し、制作過程の一部と上演の参与観察および関係者への聞き取り調査を実施した。 ② 前年度のベトナム滞在中および①で収集した資料の読解を進めた。具体的には政策文書、雑誌・新聞記事、関係者のインタビュー、スコアやパンフレットから、ベトナム・オペラの政策と実践について特に1950年代後半から1970年代までの状況の詳細が明らかになった。また作品《コー・サオ》の表象を、文化政策や民間音楽、対外関係、上演状況(1965年)といった諸要素の絡まりあいのなかに読み解き、分析を行った。 ③ 以上の成果をベトナム研究、音楽研究関連の研究会にて報告し、意見交換を行った。 ④ 本研究は対象とする問題を把握してその文脈を解きほぐしたうえで、対象に適した分析の視点や手法を設定するという姿勢をとっている。①~③と関連文献の読解を通して本研究のテーマを具体化し、分析の視点を精緻化することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1950年代から1970年代のベトナム・オペラの政策、実践、表象について、一次資料の読解によるベトナム・オペラ創成に至るプロセス(共産主義者の文化政策に沿ったオペラ概念の構築、オペラ制作のための国家主導の制度整備)とベトナム戦争期のオペラ政策の実態の解明、および《コー・サオ》の表象分析を行い、その成果を研究会等で報告した。また上記④の作業では、具体的な諸事象の分析視点を設定していくと同時に、「なぜベトナム・オペラが創作、上演されてきたのか」という本研究の根本的な問いにアプローチするために、先行研究において作品群の分類として捉えられてきた「ベトナム・オペラ」というジャンルを独立した固定的なものとしてではなく、政策や作品、実践、学問などとの相関関係のなかに捉えるという重要な視点を得ることができた。 2019年度の当初の計画で予定していた《コー・サオ》の近年における再演状況および通時的な視点を踏まえた分析には至らなかったが、今後の研究プロセスに不可欠な、研究全体における分析の視点を精緻化するという作業で一定の進展を得ることができたため、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は前年度からの継続として《コー・サオ》の近年の再演状況を明らかにし、前年度の成果と合わせた分析を行う。その後、「ベトナム・オペラ」というジャンルを多角的、全体的に読み解くための調査、分析を進める。第一に、《コー・サオ》以外の作品とその上演の実態についての分析を行う。第二に、ベトナム・オペラに隣接するジャンルやその作品、ホーチミン市のオペラ団や地方歌舞団といった国立組織以外での類似する活動との関係性にも視野を広げ、国家を中心としたオペラ活動やそれが構築するジャンルを相対的に捉えることを試みる。この作業にあたり、2019年度までに収集した資料読解に加え、ベトナムでの二度の短期調査を予定している。分析にあたっては2019年度までの結果を踏まえながら、2020年度においても研究発表等における意見交換や文献読解を通して分析枠組みや視点の精緻化を継続する。加えて年度の後半には、研究成果を公表していくために学会発表と論文執筆を行う。本研究の成果は博士論文としてもまとめ、広く公開し社会への還元を図る。 なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で年度内に現地調査を実施できない場合、日本国内での資料調査、論文執筆作業を進めることで代替する。
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