研究課題/領域番号 |
19J11287
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
古谷 美也子 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | 舞楽図 / 土佐派 / 狩野派 / 源氏絵 / 宮廷文化 / 武家社会 / 故実 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、宮廷文化である舞楽を画題とする舞楽図が、近世期においては、武家が求める故実性や儀礼の在り方をも象徴していることを明らかにすることである。この研究目的を達成するために、今年度は、研究対象とする作品として土佐光信筆《源氏物語画帖》(ハーヴァード大学美術館)、狩野安成筆《舞楽図屏風》(出雲大社)、久隅守景筆《舞楽図屏風》(根津美術館)を中心に、関連資料と情報収集、及び比較作例とする作品調査を国内と米国の美術館、博物館及び所蔵先で行った。 国内では、徳川美術館、和歌山県立博物館、和歌山市立博物館の展覧会において大名家と舞楽に関連する情報収集、福岡市美術館では中世絵画の舞楽場面と近世後期の舞楽図の熟覧と写真撮影、和泉市久保惣記念美術館の展覧会では源氏絵の舞楽場面の情報収集、栃木県立博物館では近世後期の住吉派の舞楽図の熟覧と写真撮影、東京藝術大学美術館では近世期の舞楽図粉本と舞楽図模本の熟覧と写真撮影を行った。申請済であった出雲大社での作品調査は新型ウイルスの影響で延期となったため、次年度に実施する予定である。米国では、メトロポリタン美術館の展覧会において源氏絵の舞楽場面について情報収集と、狩野派の舞楽図屏風の熟覧と写真撮影、クリーブランド美術館において、狩野派の舞楽図屏風の熟覧を行った。 関連する資料収集として、名古屋市蓬佐文庫において尾張東照宮関連の史料、國學院大學図書館において出雲大社関連史料の閲覧と複写を行い、データ化した。 収集した源氏絵と舞楽図に関連する情報についてまとめ、7月に日本風俗史学会大学院博士課程研究発表会において口頭発表(発表題目「源氏絵と舞楽図の関連性について―ハーヴァード大学美術館蔵「源氏物語画帖」を例に―」)を行い、貴重なご意見を頂いた。これらをもとに論文を執筆する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.展覧会や図版も含めて源氏絵について調査をしたことによって、江戸時代の源氏絵の多くと舞楽図に描かれた図様が共通することを明らかとし、その図様の初出作品として、土佐光信筆《源氏物語画帖》を位置づけた。そのため、室町時代後期の土佐光信の時代に舞楽図の粉本が整えられた可能性を提示することができ、今後、源氏絵と舞楽図の関連性についてさらに研究を広げられる展望が見られた。 2.出雲大社に関する史料にある江戸時代中期の狩野安成筆《舞楽図屏風》に言及した記事について、先行研究をもとに、江戸時代に制作された同構図の舞楽図屏風は、宮中の舞楽図という故実性が求められていた可能性を提示した。 3.久隅守景筆《舞楽図屏風》について、画面には狩野派の舞楽図からの引用と守景独自の工夫が表れていることを指摘した。また、人物表現に狩野派での粉本学習の成果が見られることと、他の舞楽図にみられない中国の古楽器が描かれていることを指摘し、宮廷の舞楽ではない新たな舞楽を象徴していることを指摘した。さらに尾張藩の東照宮祭礼での舞楽との関連性に注目しており、今後も調査を進めていきたい。 4.研究対象とする作品以外にも舞楽図の作品調査を実施したことで、対象作品をより多くの作品と比較検討を行うことが可能になり、画風の変遷についてさらに明確に分類することができた。この結果を生かして、図様の変化だけでなく、画家独自の画風についても考察を深めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、主に日光山輪王寺蔵《舞楽図屏風》と江戸時代後期に流布した舞楽図粉本について文献調査と情報収集を行う。また、これまでの調査と収集した資料をまとめて論文執筆を中心に行う。 文献調査は、特に江戸時代前期の日光及び紀伊藩、尾張藩での東照宮祭礼と天海僧正との関連について調査し、将軍家の儀礼で行われた舞楽の状況と、絵画である舞楽図の役割について考察する。また、江戸時代後期の舞楽図粉本の流布した状況については、松平定信を中心とする同時代の故実研究と雅楽研究について調査を行う。さらに、定信が編纂した『古画類聚』所収の舞楽図について情報収集を行い考察する。前年度延期となった出雲大社と、申請中の大阪四天王寺での作品調査は、実施が可能になり次第行う予定である。調査で得られた画像や史料は随時データ化し研究資料として整理する。 以上の結果をもとに、研究対象に設定した室町時代後期から江戸時代後期までの舞楽図について、作品としての位置付けをおこない、系譜を整理する。さらに同時代の武家社会において、舞楽と舞楽図がどのように認識されていたかということについて考察を行い、その内容を論文にまとめる。
|