本研究の目的は、江戸時代の舞楽図と、同時代の武家社会において求められた儀礼および故実との関連性を明らかにすることである。本年度は主に江戸時代後半の舞楽図について調査と情報収集を行なった。あわせて昨年度から調査を継続している江戸時代前半の舞楽図について、その成果を論文としてまとめた。 1.資料調査:①宮内庁書陵部において「石清水臨時祭再興図絵」(原在明筆)の実見調査と京都府立京都学・歴彩館において関連する原家文書の調査、京都国立博物館と国会図書館において幕末の宮中行事を描いた『公事録附図』について情報収集を行い、朝儀復興の風潮において描かれたあらたな舞楽の図様と、その画風が明治期へと継承されたことを確認した。②松平定信編纂『古画類聚』に収載された古画舞楽図について、定信と交流があった藤原貞幹に関する情報収集を筑波大学図書館、国会図書館で行なった。貞幹の舞楽図収集と『古画類聚』との関連性は、今後、定信周辺で行われていた古画研究の一端を明らかとすることが期待できる。③和泉市久保惣記念美術館、中之島香雪美術館において、源氏絵の舞楽場面について引き続き情報収集を行ない、室町時代後期の土佐光信筆「源氏物語画帖」(ハーヴァード大学美術館)に描かれた舞楽「青海波」「陵王」の図様が、江戸時代の源氏絵に継承されていることを確認した。 2.論文執筆:昨年度の調査と情報収集の成果として、学会誌『風俗史学』、『MUSEUM』に論文を投稿、『鹿島美術研究』に研究報告論文を提出した。 3.博士論文執筆:これまでの研究の成果として、室町時代後期から江戸時代の舞楽図を概観し、土佐派から狩野派への図様の継承、狩野派の舞楽図に求められた故実性、古画としての舞楽図研究の状況、新たな画派による図様の展開という変遷を提示した。 今後は、舞楽以外の画題へと視野を広げ、江戸時代のやまと絵研究へと発展させていく予定である。
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