研究課題
弱い引力相互作用による超伝導と、強い引力相互作用による超流動の間のBCS-BECクロスオーバーについて調べるために、極低温超高分解能レーザー角度分解光電子分光を用いて鉄系超伝導体FeSe1-xSxの超伝導状態での電子構造を研究してきた。本研究について、筆頭著者として論文を執筆し、当該年度にScience Advances誌に掲載された。研究の具体的な内容について述べる。xを大きくすることで、超伝導相でのブルリアンゾーン中心のホールバンドの分散形状が下凸(BCS的)から上凸(BEC的)に変わっていくことを観測した。また、x = 0.21では超伝導転移温度よりも高温から状態密度にギャップ(擬ギャップ)が開くことを観測した。これらは、xを大きくすることでBCS状態からBEC状態に変わっていくことを示す証拠である。BCS-BECクロスオーバーの制御パラメータとしては、超伝導ギャップとフェルミエネルギーの比が用いられてきた。驚くべきことに、BCS-BECクロスオーバーとこの制御パラメータの振る舞い方がシングルバンドの場合の計算と比べて実験結果が逆であることが明らかになった。この理由として、超伝導ギャップを観測しているホールバンドと、ブルリアンゾーン中心にフェルミ準位より低エネルギー側に存在するもう一つのホールバンドの相互作用が考えられる。実際、xを大きくすることで二つのバンドのエネルギー差は小さくなっていることが観測され、低エネルギー側のバンドが超伝導のペアリングへの関与が大きくなることでBEC状態が実現していると理解することができる。本研究は、固体電子系において初めてBEC超伝導状態を発見したものと言える。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Science Advances
巻: 6 ページ: eabb9052 (1-6)
10.1126/sciadv.abb9052
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=11590