研究課題/領域番号 |
19J11312
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
藤田 雅也 長岡技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | バクテリア / リグニン / 芳香族化合物 / 外膜輸送 |
研究実績の概要 |
令和1年度ではまず、SYK-6株の2-ピロン-4,6-ジカルボン酸 (PDC)変換酵素遺伝子欠損株において、5,5’-デヒドロジバニリン酸 (DDVA)の外膜トランスポーターであるddvTの高発現によりDDVAからのPDC生産能が向上するかを検討した。その結果、ddvT高発現株は、非高発現株と比較して、PDC生産速度が約1.3倍に向上した。また、内膜局在性のエネルギー伝達装置であるTon complexについては、SYK-6株が有する6つのtonBの破壊株、高発現株のリグニン由来芳香族化合物の変換能測定により、tonB1-exbB1-exbD1/exbD2がDDVAの外膜輸送に主要な役割を担うことが示唆された。tonB1-exbB1-exbD1/exbD2高発現株は、DDVA以外の一部のリグニン由来芳香族化合物の変換能も向上したため、これら化合物の取り込みへの関与が予想された。 膜貫通部位を除去したtonB1-6を、それぞれN末端にHisタグが付加されるようpET-21a(+)に導入し、大腸菌で発現させ、Ni-NTAカラムによる精製を試みた。TonB2、3、4については精製タンパク質の取得に成功したが、TonB1、5、6は不溶化が激しく、精製には至らなかった。そこで、可溶化タグであるマルトース結合タンパク質 (MBP)とHisタグをN末端に付加し、同様に大腸菌で発現させ、MBP結合担体による精製を試みた。その結果、すべてのTonBについて、精製タンパク質の取得に成功した。 tonB2の遺伝子破壊株が様々なリグニン由来芳香族化合物における生育に大幅な遅延を示すことから、生育に必須な鉄の取り込みへのtonB2の関与を検討した。その結果、外膜ではtonB2と4つのTBDRからなるTonシステムが、内膜では二価鉄イオントランスポーターのFeoが鉄取り込みにそれぞれ主要な役割を担うことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和1年度では、DDVAの外膜輸送システムの全貌を解明することに成功し、DDVA外膜輸送システムの高発現により取り込み能、物質生産能を強化することに成功した。また、時間を要したが、すべての精製TonBの取得に成功したことは、今後の研究を円滑に進めるうえで着実な進展と言える。さらに、当初の研究計画には含まれていなかったが、本テーマを遂行する過程で、TonB2、ならびに4つのTBDRが外膜における鉄獲得に関与すること、二価鉄イオントランスポーターであるFeoが内膜での鉄取り込みに重要であることを明らかとし、これら鉄取り込みに関与するトランスポーターの転写制御を二価鉄応答性の転写制御因子Furが担うことを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
リグニン由来芳香族化合物を取り込むTBDRの一例を示せたものの、その他の取り込み経路については不明のままである。そこで、精製TonBを結合させた担体に、各リグニン由来芳香族化合物で培養したSYK-6株の細胞抽出液を流すことによりTonBと相互作用するTBDRを同定する。プルダウンによる同定が困難な場合は、バクテリアツーハイブリッド法によりTonBとTBDRとの結合性を評価する。取得したTBDRの遺伝子破壊株のリグニン由来芳香族化合物の変換能、取得済みのDNAマイクロアレイ解析のデータから総合的に判断し、リグニン由来芳香族化合物の取り込みに関与する新たなTBDRを同定する。その後、同定したTBDRの高発現が当該基質の変換能に及ぼす影響を評価する。また、当初の研究計画には含まれていないが、DDVAとDdvTの結合性を評価するために、大腸菌で発現させたddvTの精製実験を実施する。
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