研究実績の概要 |
今年度は昨年度に引き続き, ホール効果を伴う磁気粘性流体方程式系 (以下, Hall-MHD系) の初期値問題の適切性を臨界空間の枠組みで考察した. ここでHall-MHD系はオーロラの生成や核融合炉制御のシミュレーションに用いられるプラズマ物理モデルであり, 臨界空間とは方程式を不変に保つ尺度変換に対してノルム不変となる函数空間である. 昨年度は圧縮性Hall-MHD系の臨界適切性を2乗可積分空間をベースにした臨界べソフ空間上で考察したが, 適切性をより広い臨界空間上で考察するために, 今年度は比較的容易な非圧縮性Hall-MHD系の初期値問題を臨界フーリエ・べソフ空間上で考察した. フーリエ・べソフ空間を採用した理由としては, 空間遠方で定数磁場が働く場合とそうでない場合(空間遠方で磁場が零ベクトル)で方程式系の線型主要部の構造が異なる為である. 具体的には, 前者の主要部は複素ギンツブルク・ランダウ方程式, 後者は熱方程式となる. ギンツブルク・ランダウ方程式の基本解はシュレディンガー発展群と熱核を用いて表示できるが, シュレディンガー発展群は2乗可積分空間以外のルベーグ空間上で有界作用素とならないことが知られている. しかし一方で, シュレディンガー発展群はフーリエ・ルベーグ空間上では有界作用素になる. 従って, 遠方で定数磁場が働くHall-MHD系をルベーグ空間をベースにしたべソフ空間の枠組みでは解析が困難である為, フーリエ・ルベーグ空間を基調にしたフーリエ・べソフ空間を採用した. 以上の考察を基に, 線型Hall-MHD系の解の滑らかさを保証する一般化最大正則性評価, 及び非線形項の評価に必要な函数同士の積の評価をフーリエ・べソフ空間上で導出し, 非圧縮性Hall-MHD系の時間大域適切性を臨界フーリエ・べソフ空間上で証明した.
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