研究課題/領域番号 |
19J11351
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
宮城 一真 岐阜大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | セルロース誘導体 / コレステリック液晶 / メカノクロミズム / コンポジット / 円二色性 / 光学機能材料 / 圧力センシング / 高分子 |
研究実績の概要 |
セルロース系コレステリック液晶(ChLC)フィルムが発現する圧縮誘起円二色性反転について,理論モデルを用いたアプローチによりメカニズムを解明した。 円二色性反転現象について,「圧縮によってフィルム構成ポリマーの一部が線形配向し,それに起因して透過円偏光の複屈折が生じた結果,円二色性が反転する」という仮説を立てた。この仮説に基づき,圧縮後のChLCフィルムが示す円二色性スペクトルの理論式を導出し,実験によって得たスペクトルとの比較を行った。その結果,理論と実測のスペクトルの良好な一致が見られたことから,上記の仮説の妥当性が示された。ChLCフィルムの線形配向は,印加する圧縮ひずみに伴って増大することもわかった。さらに,圧縮後のChLCフィルムを熱処理に供すると圧縮前の円二色性を回復する現象についても,同様のアプローチによってメカニズムを解明できた。本成果についてまとめた論文が国際誌に掲載された。 セルロース誘導体の形成するChLC構造を幅広い合成ポリマー中で固定化すること,それによってセルロース系ChLCフィルムのメカノクロミック特性の発現条件を拡張することに成功した。 ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)と酸無水物の反応を行い,反応条件の検討によって種々のアシル化度のアシル化HPCを調製した。得られたアシル化HPCと種々の合成ポリマーの複合化を行った結果,特定のアシル化度において,ChLC構造が幅広い合成ポリマー中で固定化できることがわかった。種々のポリマーとの複合化が可能になったことにより,ChLCフィルムのメカノクロミック特性を発現できる温度および圧力を,合成ポリマー種を変更するだけで容易に制御することができた。本成果について二報の論文を執筆し,それぞれ国際誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは,セルロース系ChLCフィルムの円二色性が圧縮によって反転するメカニズムの解明である。申請者は,「圧縮によってフィルム構成ポリマーの一部が線形配向し,透過円偏光に複屈折が生じることで円二色性が反転する」という仮説を立てた。この仮説に基づき,圧縮後のChLCフィルムの複屈折の値から理論CDスペクトルを計算する数理モデルを導出した。計算によって得た理論CDスペクトルを測定によって得たCDスペクトルと比較すると,良い一致が見られた。したがって,圧縮によるChLCフィルムの円二色性反転は,フィルム構成ポリマーの線形配向に起因することが明らかになった。さらに,圧縮後のChLCフィルムを熱処理に供するとフィルムの複屈折が減少したことから,熱処理によって線形配向が緩和され,元の円二色性を回復することもわかった。以上のように,セルロース系ChLCフィルムの円二色性反転のメカニズムを解明できたことから,本課題は順調に進展したと言える。 本研究のもう一つの目的は,セルロース誘導体の分子設計により,ChLCフィルムのメカノクロミック特性の発現条件を拡張することである。種々のアシル化度のアシル化HPCを調製し,様々な合成ポリマーと複合化した結果,特定のアシル化度においてChLC構造を幅広いポリマー中で固定化できた。格子-スピン緩和時間測定によって複合フィルムの混和性を評価した結果,アシル化HPCと合成ポリマーの混和性が低いほどChLC構造を効果的に固定化できることが明らかになった。最もChLC固定化効率の高かったアシル化HPCを種々の合成ポリマーと複合化し,メカノクロミック特性を評価した結果,合成ポリマー種を変更するだけでメカノクロミック特性の発現温度および圧力を容易に制御できた。以上より,本研究は順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で,セルロース系液晶フィルムが発現する応力誘起円二色性反転の分子メカニズムを解明できた。今年度は,この知見を活かしたセルロース系液晶フィルムの応用展開を図る。具体的には,力学刺激に応答して円二色性が変化することを利用し,材料の力学的ダメージの蓄積を可視化するマーカーとしての応用を目指す。また,昨年度の研究において,セルロース誘導体の側鎖種や複合化する合成ポリマー種を変えることによって,液晶構造固定化能やメカノクロミック特性を幅広く制御できることが明らかになった。そこで,フィルム構成ポリマーの分子設計により,様々なオーダーの応力や種々の温度に対応可能な力学刺激マーカーの開発を行う。これまでの研究ではリオトロピック液晶を扱ってきたが,今後の研究では材料設計の幅を広げるためにサーモトロピック液晶系のセルロース誘導体を利用する。 まずサーモトロピックセルロース誘導体と種々の合成ポリマーの混和性について,示差走査熱量測定や原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価する。AFMから得られたモルホロジーのデータを基に,複合フィルムのモルホロジーとChLC固定化能の相関性を明らかにする。また,ブレンドフィルムを熱処理に供し,熱処理温度および時間を変えることでモルホロジーの制御を図る。モルホロジー制御によりChLC構造を幅広い対ポリマー中で固定化できるようになったら,複合フィルムのメカノクロミック特性を評価する。具体的には,熱プレス機を用いて複合フィルムを圧縮し,圧縮応力と色調や円二色性の関係を評価する。さらに,複合フィルムの引張試験を行い,引張応力との関係についても明らかにする。合成ポリマー種を変えることで,複合フィルムの色調や円二色性の圧力応答性および引張応答性を制御する。これらのデータを基に力学刺激マーカーを開発し,性能評価を行う。
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