本研究では,セルロース誘導体の形成するコレステリック液晶(ChLC)が円偏光選択反射によって呈色する点に着目し,グルコース濃度に応じて色が変わる材料の作製を試みた。具体的には,グルコース応答性を有することでよく知られるフェニルボロン酸(PBA)を液晶性セルロース誘導体であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の側鎖に導入した分子(PBA-HPC)を合成し,液晶性およびグルコース応答性を評価した。PBA-HPCは,4-カルボキシフェニルボロン酸(CPBA)とHPCをカルボジイミドカップリングでエステル結合させることにより合成した。CPBAの仕込み量を変えることで,HPC側鎖に導入されたPBAの量(DSPBA)を制御することが可能であった。種々のDSPBAのPBA-HPCを60-70 wt%で水に溶解し,ChLC形成能を評価した結果,DSPBAが高いほどChLC形成能は低くなることが明らかになった。また,DSPBAが一定以上になると,PBA側鎖の芳香環に由来して疎水性が高くなるため,水に溶けなくなることも分かった。未修飾のHPCおよびPBA-HPCのChLC水溶液を調製し,これらにグルコースを添加した際の色調変化の挙動を調査した。その結果,いずれの系においても,グルコース濃度の増加によって溶液の色がブルーシフトし,グルコース応答性を示すことが明らかになった。さらに,PBA-HPCのChLC溶液は,未修飾のHPCに比べて,グルコース濃度の増加によるブルーシフトの程度が大きかったことから,より高い応答性を示すことがわかった。これらの結果から,セルロース誘導体のChLCを用いたグルコースセンシングを実現することができた。
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