研究課題/領域番号 |
19J11357
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
川副 徹郎 九州大学, 医学系学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 食道扁平上皮癌 / 炎症シグナル |
研究実績の概要 |
(1) ヒト食道扁平上皮癌におけるIL-6ファミリーサイトカインの発現について ヒト食道扁平上皮癌細胞株のRNAを抽出し、定量的RT-PCRを用いてIL-6ファミリーサイトカインの発現を検討した。IL-6ファミリーサイトカインの中でもIL-6、LIFの発現が認められることが同定された(図1)。またヒト食道扁平上皮癌培養上清を用いてELISAを行ったところIL-6、LIFが検出された。IL-6、LIFによるオートクラインのメカニズムでヒト食道扁平上皮癌が進展することを想定した。 (2) ヒト食道扁平上皮癌におけるIL-6、LIFのノックダウンの効果 siRNAを用いてヒト食道扁平上皮癌にIL-6やLIFのノックダウンを導入し、細胞株の表現型の変化やシグナル発現の変化について検討を行った。LIFのノックダウンによりYAPやその標的遺伝子の発現が抑制することを同定した。IL-6やLIFのノックダウンを行うことで、Cyclin D1やMki67といった増殖関連遺伝子の発現が抑制され、MTT assayによりヒト食道扁平上皮癌の増殖抑制効果が確認された。LIFのノックダウンにより抗アポトーシス関連遺伝子の発現が抑制され、食道扁平上皮癌細胞株のアポトーシスが誘導された。LIFノックダウンによりヒト食道扁平上皮癌細胞株の浸潤能・遊走能が抑制されることを確認した。一方で、IL-6やLIFに対する中和抗体は抗腫瘍効果を示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の食道がんの大部分を占める食道扁平上皮癌(ESCC)における炎症とIL-6ファミリーサイトカインであるLIFの役割について研究を行っている。食道がん細胞株において、LIFがJAK-STAT3経路のみならず、Src family kinase(SFK)を介してYAPを活性化する事、LIFをノックダウンすると細胞増殖や浸潤の抑制、アポトーシスの促進などが見られる事を明らかにし、ESCCにおけるLIF発現の重要性を初めて実験的に証明した。また阻害剤を用いた実験により、SFK-YAP経路およびJAK-STAT3経路の同時阻害がヒトESCC細胞株の増殖抑制に非常に有用である事を明らかにした。以上の結果は、ヒトESCCにおけるLIF-SFK-YAP経路の重要性とSFK-YAP経路とJAK-STAT3経路の同時阻害がESCCの新しい治療法となりうることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ヌードマウスを用いた解析 LIFノックダウンの効果をin vivoでも検討するために、ヒト食道扁平上皮癌細胞株にLIFノックダウンを導入し、ヌードマウスに皮下投与する。ヌードマウスでの腫瘍生着を確認し、腫瘍サイズの測定、ヌードマウスの予後の解析を行う。さらに形成された腫瘍を顕微鏡下に観察し、組織学的特徴を解析する。また免疫組織化学染色を用いて腫瘍の増殖関連マーカーの発現やLIF関連シグナルの発現について検討する。 (2) IL-6ファミリーサイトカインや炎症関連シグナル阻害による細胞株の変化の観察 in vitroにおいてヒト食道扁平上皮癌細胞株を用いて炎症シグナルの活性化を解析し、そのクロストークを明らかにする。ヒト食道扁平上皮癌細胞株においてSrc, JAK阻害剤を用いて増殖能や遊走能評価を行う。また増殖関連遺伝子、抗アポトーシス関連遺伝子、YAP標的遺伝子の発現をウエスタンブロット及びリアルタイムPCRで評価する。ヒト食道扁平上皮癌細胞株におけるIL-6ファミリーサイトカインの発現を確認する。食道扁平上皮癌細胞株にIL-6ファミリーサイトカインやgp130のノックダウンや過剰発現などの遺伝子改変を導入する。遺伝子改変を導入した細胞株において増殖能、遊走能の評価を行う。さらにIL-6ファミリーサイトカインやgp130のノックダウンや過剰発現を導入した細胞株を用いてRNAシーケンスやエピゲノム解析を行い、炎症が癌を進展させるメカニズムに関与する遺伝子やエピゲノミックな変化を同定する。
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