研究課題/領域番号 |
19J11375
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
白井 孝信 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞競合 / Ras / 発がん超初期段階 / 細胞競合マウスモデル / 肺上皮 / 微小環境 |
研究実績の概要 |
我々は変異細胞が出現したばかりの発がん超初期段階において、マウスの腸管や肺上皮層でがんタンパク質RasV12を発現したRas変異細胞が体外の方向へ排除されることを見出してきた。一方で、先行研究でRas変異を組織に長期間経過すると腸管や膵臓では腫瘍が形成されないのに対して肺では腫瘍が形成されることが報告されている。本研究は、Ras変異細胞の腫瘍化を促進する肺に特異的な要因の特定を目指し、Ras変異細胞の挙動を経時的に観察した。その結果、排除されなかった一部のRas変異細胞は正常細胞を巻き込んだ異常構造(以下、ドーム様構造)が形成することが明らかとなった。 本年度はドーム様構造の形成メカニズムの解明を試みた。ドーム様構造を形成する細胞を同定するため、各上皮細胞のマーカーの発現を検討した。コントロールのYFP発現細胞の多くはクラブ細胞のマーカーを発現していたが、一方で多くのRas変異細胞はマーカーの発現を消失していた。新たなマウスを用いてクラブ細胞特異的にRas変異を誘導したところドーム様構造が形成されたため、クラブ細胞がドーム様構造の起源の一つであることを明らかにした。ドーム様構造に免疫細胞や筋線維芽細胞が集積するメカニズムを解明するために、炎症を制御するCox-2の発現を検討した。その結果、ドーム様構造を形成するRas変異細胞ではCox-2の発現が高いことが明らかになった。そこでCox阻害剤であるIbuprofenをマウスに投与するとドーム様構造の数と筋線維芽細胞の集積が減少する傾向にあることが明らかとなった。ドーム様構造の形成が肺に特異的かどうかを検証するため、他の上皮組織におけるRas変異細胞の挙動を追跡した。その結果、小腸、膵臓、乳腺ではドーム様構造がほとんど形成されないことが明らかとなった。以上より、Ras変異により肺に特異的な微小環境が形成されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、ドーム様構造の起源となる細胞が少なくともクラブ細胞であることを特定することが出来た。ドーム様構造に集積している免疫細胞の種類の同定に関しても現在解析を進めている。 ドーム様構造が形成されるメカニズムの1つとして炎症の関与を検討した。その結果、Cox-2の発現がドーム様構造の形成に寄与していることを明らかにした。 ドーム様構造に特異的に発現している遺伝子の検討に関して、single-cell RNA-seqによる網羅的な解析を予定している。Single-cell RNA-seqに供するサンプルを用意するため、共同研究によりFACSによる肺組織からRas変異細胞をソートする実験系を確立した。既にsingle-cell RNA-seqを実施する目途も立っている。 来年度計画していた他の上皮組織におけるドーム様構造の有無の検討を前倒しで実施した。その結果、ドーム様構造は肺において高頻度で形成されることを明らかにした。 以上より、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画として、ドーム様構造の形成メカニズムの更なる解明と網羅的解析によるドーム様構造に特異的に発現している遺伝子パターンの解明、病理サンプルで実際にドーム様構造が形成されるかどうかを検証することを目指す。 ドーム様構造と周囲の正常細胞の関係を解明するために、ドーム様構造に集積している免疫細胞の種類を特定し、中和抗体等で特定の免疫細胞の集積を抑制する。その際のドーム様構造の形成率とRas変異細胞の増殖率を検証する。ドーム様構造に特異的なマーカーの探索においては、Single-cell RNA-seqによる網羅的解析により、ドーム様構造のRas変異細胞に特有の遺伝子発現パターンとマーカーの同定を試みる。マーカーを特定できた場合は、病理サンプルを用いて特定した遺伝子を発現している病変の有無を検討する。 これらの実験により、発がん超初期段階において肺に特異的に形成される微小環境がRas変異による腫瘍化を促進するかどうかを検証する。
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