研究課題
iPS細胞誘導過程において、リプログラミング因子の一つであるKLF4の量を変えることにより、多能性の異なる細胞を得られることが示されている。また、X染色体の再活性化(XCR)はiPS細胞誘導の後期に起きることが報告されている。さらに、私はこれまでの研究において、2種類のマウス、Mus musculus(B6)とMus spretus(Sp)をかけ合わせたマウスのマウス胎児線維芽細胞に対してiPS細胞誘導を行い、X染色体上の任意の遺伝子転写産物がどちらのアレル由来であるか区別・定量することでXCRを検出する系を確立した。そこで、KLF4タンパク質量を変化させながらiPS細胞誘導を行い、各細胞のX染色体の活性化状態をSNP cDNA typingにより評価を行った。結果、X染色体上のある遺伝子に着目すると、B6アレル由来の転写比が増加していくことから、X染色体活性化状態の異なる細胞が得られたと考えられる。次に、以上のようにして得られた細胞に対してそれぞれRNA-seqを行い、転写産物のアレルごとへの読み分けを行った。XCRが進んでいると考えられる細胞では、XCRがより進んでいない細胞に対して、X染色体全域におけるB6の転写比が増加していた。さらに、よりXCRが進んでいないと考えられる細胞においては、ある一定の領域では特にB6の転写比が増加していた。XCRが進んでいる細胞でも、この領域のB6転写比は他の領域と比べて高いことから、この領域がXCR開始領域であると考えられる。そして、XCRはXCR開始領域に転写因子が直接結合することにより引き起こされると考えられるため、XCR開始領域に結合する転写因子のスクリーニングを行った。ChIP-Atlasというデータベースを用いてこれらの遺伝子に結合する転写因子を確認し、XCR誘導候補因子を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の研究計画は、①X染色体活性化状態の異なるiPS細胞の誘導、②XCR開始領域の同定、③XCR誘導因子の同定、④ヒトナイーブ型iPS細胞の誘導からなり、2019年度では③XCR誘導因子の同定までを予定していた。現在、③XCR誘導因子の同定のため、shRNAを用いた誘導候補因子のノックダウンにより、誘導因子の同定がほぼ終了しようとしているところである。
昨年度、X染色体の活性化状態が異なる細胞に対してRNA-seqを行い、X染色体上の各遺伝子領域の転写量の情報から、XCR開始領域を同定した。 また、XCR開始領域は比較的オープンなクロマチン構造を取ることから、既存のデータベースを用いてこの領域に結合する転写因子の絞り込みを行った。そこで現在、XCR開始領域に結合する転写因子をXCR誘導候補因子とし、これら候補因子をshRNAによりノックダウンすることで、実際にXCRの開始に関与する開始因子の同定を行っている。実際に候補因子の絞り込みができれば、過剰発現や阻害剤の使用などにより、候補因子のXCRに対する影響を再確認し、誘導因子とする。また、実際に誘導因子を用いてマウス細胞のリプログラミングを行い、RT-qPCRや、免疫染色法により、多能性関連遺伝子の発現上昇が見られるかどうか確認する。多能性関連遺伝子の発現上昇が確認できなければ、XCR 誘導因子と Tcl1 の両方を利用してリプログラミングを行い、XCR と多能性関連遺伝子の発現上昇の両方が見られる、ナイーブ型の多能性が誘導されるかどうか確認する。最後に、マウス細胞においてナイーブ型の iPS 細胞をより効率よく誘導した方法を用いてヒト細胞のリプログラミングを行う。多能性関連遺伝子の発現上昇をRT-qPCRにて、X染色体の活性化状態をSNP cDNA typing にて確認し、ナイーブ型の iPS 細胞が得られたか結論づける。さらに得られた細胞の多能性の程度を、テラトーマ形成能、キメラマウス作製、生殖細胞系伝達効率等から評価する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Cell Reports
巻: 29 ページ: 1909-1922
10.1016/j.celrep.2019.10.010