研究課題/領域番号 |
19J11417
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
李 学成 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 再生可能エネルギー / 自然除湿 / 放射冷却 / 太陽熱集熱 / 湿度調節 |
研究実績の概要 |
本研究では再生可能エネルギーを利用し,恒温恒湿性能および夏季冷却・除湿と冬季集熱の機能を備えるパッシブ住宅の設計を目的として,加熱・冷却と調湿の特性を有する高機能外被システムを開発する。本システムは,室内外の熱力学ポテンシャル差を利用して,空気循環により夏季は自然に冷却・除湿し,冬季は太陽集熱する熱性能可変型のインテリジェント・パッシブシステム(PDSC: Passive Dehumidification and Solar Collection)である。 本システムの効果を明らかに検討するため,PDSC外被システムを導入した実証住宅を糸島市に設計施工し,通年に亘り室内環境を実測した。本システムを備えていない同じ建物性能の一般住宅と比較することで,夏季の除湿・冷却と冬季の太陽集熱効果について検討した。本システムにより,夏季は空調の有無に拘らず室内相対湿度が昼間に約4~8ポイント低下すること,夜間は放射冷却とデシカント効果により,室内温湿度が最大で約2℃,約11ポイントも低下することを明らかにした。一方,冬季は太陽集熱により昼間の室温が最大で約3℃上昇した。なお,一般住宅は冬季昼間に過乾燥状態となるのに対して,PDSC外被システム住宅では温度上昇にともなう断熱材からの脱着水蒸気(夜間に吸着された水蒸気)が室内に循環するため調湿効果が見られた。 また,数値シミュレーションにより本システムの温湿度制御性能および省エネルギー性能について検討した。その結果,PDSC外被システム住宅は,一般住宅と比較して夏季の顕熱・潜熱負荷をそれぞれ約5%,約20~41%削減できること、冬季の顕熱負荷を10%以上削減できることなどを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,再生可能エネルギーを利用した省エネルギー住宅の設計を目的として,室内外の熱力学ポテンシャル差を利用して空気循環により夏季は自然に冷却・除湿し,冬季は太陽集熱する熱性能可変型のインテリジェント・パッシブシステム(PDSC: Passive Dehumidification and Solar Collection)を開発するとともに,その温湿度制御性能および省エネルギー効果について検討している。まず,温度・濃度・圧力・外力等の水蒸気移動に関わる各種物理量を,同次元のエネルギー(熱力学関数で定義される水分ポテンシャル)に統一化して表現し,熱・水分・空気の連成現象を非平衡熱力学に則ったエネルギーの流れとして表すことで,PDSC外被システムの基本概念を理論的に説明した。次に,実大の実証住宅を用いたフィールド実験により,本システムが夏季は冷却・除湿による室内温湿度の低下,冬季は太陽集熱と吸放湿による温度上昇と調湿の機能を有することを実証した。さらに,熱・水分・空気連成を考慮した建築環境シミュレーションを行い,計算条件(対象地域と建物仕様)を変更したパラメトリック感度解析により,本システムの優れた恒温恒湿性能と顕熱・潜熱負荷の低減効果を明らかにした。以上,冷暖房時の顕熱負荷のみならず,これまでは極めて困難であった冷房時の潜熱負荷をも削減する技術を提案するとともに,その実用化を目指すもので,先進的で萌芽性・学術性に優れる。また,非平衡熱力学に則った熱・水分・空気の複合移動解析方法は斬新的で工学的有用性が高く,建築環境工学に寄与するところが大きい。
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今後の研究の推進方策 |
① 全熱交換機との併用:本研究で計画した実証住宅は,PDSCシステムと第3種換気システムを組み合わせて設計した。 実験結果から第3種換気の条件でもPDSCシステムの除湿,放熱,集熱,湿度調節の顕著な効果が確認された。しかし,潜熱回収可能な全熱交換型の第1種換気と併用すれば,PDSCシステムの更なる高効率化と冷暖房負荷の削減が期待できる。 そこで,全熱交換型第1種換気を利用したアドバンス・PDSCシステムの開発について検討する。② 屋根構成の検討:屋根通気層の温度をさらに高めることが可能な屋根構成について検討する。 現状の通気層外側の屋根構成は,ガルバリアムと構造用合板である。この構造用合板の厚さや材料を変更すれば,屋根通気層のさらなる温度上昇が期待できる。 また,屋根通気層を太陽集熱パネルにすることも考えられる,屋根通気層の温度が上昇すると,冬季の太陽集熱による顕熱負荷のさらなる削減効果,および断熱材から屋根通気層に脱着される水分量が増加することにより夏季昼間の除湿効果の向上が期待できる。③ 実際に居住者がいる条件での実験:今回の実験は居住者のいない自然条件で行っている。居住者が生活している条件で実験を行うことにより,実際の日常生活で発生する熱と水分がシステムに与える影響を確認でき,実生活環境におけるシステム効率を把握することができる。④ セルロースファイバー断熱材の調湿効果の確認:本研究で使用した実証住宅とは別に,断熱材としてセルロースファイバーが施工された住宅で,かつ実際に居住者が生活している複数の住宅を対象として室内および躯体の温湿度を長期間測定することで,水分容量の大きいセルロースファイバーの短周期および長周期の調湿効果を確認する。
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