流体力学的散逸モデルにおける光化学過程と放射過程を拡張し,原始地球大気と原始火星大気に適用した.光化学過程では光分解反応に加えて大気成分間の二体反応を考慮した.放射過程では新たにCHやCH3といった光化学性生物による赤外放射冷却を考慮した. モデル計算の結果,原始地球大気では従来の星雲大気における推定よりも水素残留期間が一桁近く伸び,初期地球において数億年に渡り富水素大気が持続していた可能性があることが明らかになった.この結果は水素やメタン等の還元的大気種が初期地球の温暖化に寄与していたこと,当時の大気が生命誕生に繋がる有機物生成において主要な役割を果たしていたことを示唆する.この結果をまとめた論文を査読付国際誌に投稿した. 原始火星大気と原始地球大気における流体力学的散逸の振る舞いを比較したところ,火星の方が重力が小さいことから大気流出速度が大きく,断熱膨張冷却が効きやすい.その結果,大気の昇温と赤外放射冷却の影響も抑えられ,大気散逸が比較的効率的に進むことが明らかになった.火星における流体力学的散逸による総大気散逸量は地球と比較して一桁以上大きくなる.現在の火星では大気量および表層揮発性物質量が地球と比べて著しく小さい.本研究から,流体力学的散逸の振る舞いの違いによって火星・地球間の大気量と表層揮発性物質量の差が生じた可能性が示唆された.この結果についてまとめた論文の投稿に向けて現在準備中である.
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