これまでに、がん細胞にX線を照射することによってミトコンドリア電子伝達系が活性化し、この活性化を阻害すると放射線感受性が上昇することが明らかになっている。しかし、この現象は正常細胞でも起こることが示唆されている。そこで本研究ではがん特異的な新規放射線治療法の開発を目的とし、種々の細胞に特異的な代謝経路およびその代謝経路の放射線応答の解明を行った。 グルコースもしくはグルタミンを含まない培地を用いて細胞の増殖能およびATP産生の評価を行ったところ、ヒト子宮頸がん由来HeLa細胞およびヒト大腸がん由来SW480細胞はグルコース依存性、ヒト肺腺がん由来A549細胞はグルタミン依存性、ヒト肝臓がん由来HepG2細胞はグルコースもしくはグルタミンの一方でも存在していると増殖やATP産生に変化がないことが示された。また、がん細胞との比較として正常細胞のヒト網膜上皮由来RPE-1細胞では、グルコースもしくはグルタミンのどちらか一方がないと増殖できないことが明らかになった。さらに、電子スピン共鳴法による酸素消費率の測定を行ったところ、HeLa細胞、SW480細胞、A549細胞ならびにHepG2細胞のどの細胞の酸素消費率もX線照射後にに上昇することが明らかになった。また、グルコース代謝の指標として2-deoxy-D-glucose(2-DG)の取り込みの評価を行ったところ、HeLa細胞、SW480細胞、A549細胞ならびにHepG2細胞において、X線照射後に2-DGの取り込み量が上昇した。 以上のことから、どのがん細胞でもX線照射後にミトコンドリア電子伝達系および解糖系の両方が活性化するが、グルコースおよびグルタミンの依存性は細胞種によって差異があったことが明らかになった。このことは、がんの種類によって適切な代謝阻害を行うことでより効率的ながんの放射線治療が新たに確立できる可能性を示している。
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