研究課題/領域番号 |
19J11528
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
安井 知己 神戸大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | イオン液体 / ゲル / ダブルネットワーク / 無機/有機ハイブリッド / エネルギー散逸 / 吸着 / 小角X線散乱 |
研究実績の概要 |
本年度は、無機/有機ダブルネットワーク(DN)イオンゲルにおけるエネルギー散逸がシリカ粒子ネットワークの内部破壊によって起こっていることを直接的に証明するために、(1)ポリジメチルアクリルアミド(PDMAAm)のシリカ粒子に対する吸着性評価ならびに(2)一軸延伸変形に伴うシリカ粒子ネットワークの構造変化評価を行った。 イオン液体中で直鎖PDMAAmとシリカ粒子の吸着実験を行ったところ、イオン液体中ではPDMAAmよりもイオン液体が優先的にシリカ粒子に吸着することが示された。つまり、イオン液体中ではPDMAAmのシリカ粒子への吸着はほとんど起こっていないことが分かった。これにより、DNイオンゲルではシリカ粒子に吸着したPDMAAmの吸脱着に伴うエネルギー散逸はほとんど起こっていないことが分かった。また、イオン液体のシリカ粒子に対する吸着能が高いほどゲルの強度が低くなるということも分かった。 DNイオンゲルの一軸延伸変形に伴うシリカ粒子ネットワークの構造変化を小角X線散乱(SAXS)によって評価した。SAXSプロファイルは一軸延伸変形によって形状が明確に変化し、延伸過程と戻り過程ではプロファイルの形状が一致しなかった。これは、シリカ粒子ネットワークの構造が一軸延伸によって不可逆的に変化したことを意味する。得られたSAXSプロファイルから延伸軸方向における相関長(凝集体の大きさ)を算出した。その結果、延伸軸方向の相関長は一軸延伸に伴って不可逆的に減少した。もしシリカ粒子ネットワークの破壊が起こっていないならば、延伸軸方向の相関長は一軸延伸に伴って増加するはずである。つまり、相関長の不可逆的な減少はシリカ粒子ネットワークの構造破壊を意味していると考えられる。 以上より、DNイオンゲルにおけるエネルギー散逸がシリカ粒子ネットワークの内部破壊に起因することを直接的に示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、PDMAAmやイオン液体のシリカ粒子に対する吸着性の評価とDNイオンゲルの延伸に伴う無機ネットワークの構造変化を評価した。延伸に伴うDNイオンゲルの構造変化評価については当初の計画通り完了した。また、本研究で検討を行っているもう一つの高強度イオンゲル、ナノコンポジット(NC)イオンゲルの構造解析についても令和元年度での実施を予定しており、透過型電子顕微鏡ならびに小角X線散乱による構造解析を進めている。 一方、PDMAAmやイオン液体のシリカ粒子に対する吸着性の評価については、当初令和2年度での実施を予定していたが、予定を前倒して検討を完了した。以上により、概ね計画通り進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
NCイオンゲルの構造について、透過型電子顕微鏡と小角X線散乱による構造評価を行う。また、NCイオンゲルのシリカ粒子量とゲルの機械的特性の関係についても検討を行う。これらの結果により、NCイオンゲルのネットワーク構造とその高強度発現機構を明らかにする。 さらに、DNイオンゲルの高強度化に必要な設計指針を得るために、PDMAAmネットワークに着目した検討を行う。具体的には、PDMAAmの重合度や架橋度を変化させてDNイオンゲルを作製し、機械的強度の評価を行う。この結果により、高強度化のために必要なPDMAAmネットワークの構造について設計指針を得る。
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