研究課題
漁業による漁獲量は近年頭打ちとなっており,需要拡大に対応する供給源として養殖生産が期待されている。しかし,海面養殖は農畜産業と比較して生産管理体制の整備が不十分であるため,生産・供給の安定化に向けて課題が多く存在する。本研究では,海面養殖において生簀内の個体数を把握する手段が限定されるという養魚管理上の問題について特に着目し,水中カメラ計測によって得られた映像を解析し,生簀内に存在する養殖魚の自動計数,及びそれを基盤とした養魚の状態把握モニタリングシステムの構築を目的としている。今年度は,解析に適した養殖生簀内のマグロの遊泳映像の取得方法に関する検討と,取得データを基に作成した個体画像抽出手法の開発,個体画像の抽出結果を用いた追跡手法の開発について,過去に開発した手法に基づく改良手法の開発を目標とした。映像取得方法の検討については,当初ステレオマルチカメラシステムによる計測を想定していたが,それぞれのカメラで計測した映像の解析可能な単一の映像に統合することが困難であったため,単一の撮影機材に超広角レンズを組み合わせる方法に移行することで,生簀内の大部分を計測することに成功した。また,水中照度や濁度,水温などの養殖場の環境データを取得し,計測に与える影響について調査を行った。個体画像抽出手法の開発については,前景部と背景部とを画素レベルで領域分割することを可能とする画像系深層学習手法を構築することで,実際に魚とそれ以外の領域とを認識・分離することに成功した。個体画像抽出手法の構築を通して,深層学習に用いる教師データの偏りが,抽出結果に大きく影響を及ぼすことが示唆された。個体追跡手法の開発については,改良結果の検証を十分に行うことができなかった。今後は追跡アルゴリズムの最適化を試みることで,実用に耐えうる養魚の自動追跡アルゴリズムを開発し,養魚の移動ベクトルの算出を目指す。
3: やや遅れている
ステレオマルチカメラシステムによる計測が難航し,単一機材による超広角撮影手法にたどり着くまでに時間を要したため,解析に利用可能な映像が当初の想定ほど確保できなかった。そのため個体画像抽出手法の構築に遅延が生じ,追跡手法の実装・検証にまで到達できなかった。これらの理由により,養殖魚の自動計数・追跡システムの定量評価まで到達できず,また,水中照度や濁度が計測に与える影響評価の進捗に遅延が生じたことから,進捗はやや遅れていると判断した。
個体画像抽出手法の性能向上に向けて,十分な映像データを確保する必要がある。そのためには,映像取得方法を試行錯誤した際に得られたデータについても利用可能な映像であれば教師データに採用することで,教師データの多様性を確保する。また,先行研究からマグロの天然個体では遊泳深度と水塊の温度との間に相関性が示唆されている。そこで,追跡手法について現在着手している検証が終了次第,算出したマグロの移動ベクトルを画像上のマグロの体長で除すことによって移動ベクトルを標準化し,取得した養殖場の環境データとの間の相関性を評価する。評価結果から養魚の行動と養殖環境との間の因果関係を調査し,養魚の状態把握システムの構築を目指す。
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