本年度は主に2つのテーマについて研究を行った。1つは電気的評価を用いてグラフェン電界効果トランジスタの基礎物性を解明することである。一般的なグラフェンバイオセンサの電気的検出は、溶液ゲート型のグラフェン電界効果トランジスタ(GFET)を作製し、伝達特性のシフトを用いて行われている。伝達特性は ターゲットの吸着によって移動度が変わらない平行方向のシフトが生じると考えられている。一方で、ホール効果測定ではキャリア散乱による移動度の大きな変化が報告されている。ゆえに、メインキャリアの伝導がFET特性の変化に与える影響について調べるために、タンパク質をグラフェン表面へ吸着させた際のホール効果測定とFET特性の2つを用いた評価を行った。新しく測定治具を作製し、ホール効果測定とFET特性のそれぞれで得られたデータの相関を得ることに成功した。 もう1つは、光学的評価を用いてグラフェン電界効果トランジスタの基礎物性を解明することである。グラフェンの特性評価にはラマン分光スペクトルの変化を解析することが有効であることは既に知られている。グラフェン固有のスペクトルはキャリア密度の値によってピーク位置が変化することが知られている。グラフェンのキャリア密度はタンパク質の吸着によって変化するためラマンスペクトルのシフトによる吸着特性評価は可能であると考えられる。 そこで液浸ラマン分光法を用いてラマンスペクトルシフトのタンパク質濃度依存性の取得を試みた。結果として、タンパク質の吸着によってグラフェンに生じるドーピング量は、ホール効果測定と液浸ラマン分光法でほとんど同じであり、グラフェンのドーピング評価において液浸ラマン分光法が有効であることが明らかとなった。また、液中でのラマンスペクトルは水分子の共振により増強することが知られており、その増強度は既存の金属蒸着による手法と同等以上の結果が得られた。
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