研究課題/領域番号 |
19J11638
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
柏原 志保 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 観察による行為の虚記憶 / observation inflation / 運動シミュレーション / 虚記憶 / 行為の記憶 |
研究実績の概要 |
他者が行為を行う様子を観察すると,自分は実演していないにもかかわらず後に「自分が行った」と誤って想起してしまう現象 (観察による行為の虚記憶 (observation inflation)) が知られている。本研究では,観察中に生じる他者行為のシミュレーションがこの現象の生起に重要な役割を果たしている可能性 (シミュレーション説) に着目し,シミュレーション説の立場から,観察による行為の虚記憶の生起メカニズムの説明を目指している。 本年度は,感覚運動領域の脳波成分であり運動の実行や観察に伴い減衰するmu波を運動シミュレーションの指標として測定し,観察による行為の虚記憶の実験パラダイムにおいて,他者行為観察中に運動シミュレーションが実際に生じていることを初めて実証した。さらに,他者行為観察時のmu波抑制量が観察による行為の虚記憶の生起率と正に相関することを明らかにし,他者行為観察中の運動シミュレーションが観察による行為の虚記憶の生起に重要であることを示した。本研究の成果は現在英語論文としてまとめており,投稿準備中である。 また,記憶の情報源を弁別するリアリティ・モニタリング (RM) に失敗した結果虚記憶が生じることから,RMエラー経験質問紙 (RMEEQ) で測定した日常でのRMエラーの経験頻度と個人特性の関連を検討する調査を2件行った。1つ目の調査では,RMEEQと自己感の揺らぎやすさの関連を検討し,自己感が揺らぎやすいほど日常でRMエラーを経験していること,特に「この行為を行ったのは私だ」という感覚である主体感の揺らぎやすさがRMエラー経験に影響することが示唆された。2つ目の調査では,刺激入力を伴わない安静状態で計測される自発脳波の前頭β帯域の時間的安定性とRMEEQの間に関連があることを示した。これらの研究成果は学術大会で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では,他者行為を観察することによって生じる行為の虚記憶現象を引き起こすパラダイム中の運動シミュレーションの生起を実証するとともに,観察による行為の虚記憶の生起量とシミュレーションの生起量に関連があることを示した。さらに,記憶の情報源の判断の失敗に,自己感の非定常性や自発脳波の時間的安定性が関連することを示してきた。これらの研究成果は,観察による行為の虚記憶の生起に他者行為観察中の運動シミュレーションが関与しているという仮説を支持するものであり,本現象の生起メカニズムの解明に寄与するものである。これらの成果の一部は学術大会にて発表されており,現在,国際誌への投稿準備を進めている。したがって,研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,前年度に引き続きデータの解析を進めるとともに,前年度に準備したモーションキャプチャを用いて,運動シミュレーションに関与する要因を操作した観察による行為の虚記憶実験を実施する。運動シミュレーションの生起に影響する要因として,観察者側の行為経験と観察対象の行為者の行為遂行の類似度を操作し,観察による行為の虚記憶への影響を検討するためデータを収集する。また,学会・研究会に精力的に参加して助言を受けるとともに,得られた研究成果を論文化し,国際誌への投稿を目指す。
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