他者が行為を行う様子を観察すると,自分自身は実演していない行為であるにもかかわらず後に「自分が行った」と誤って想起する現象(観察による行為の虚記憶(observation inflation))が報告されている。本研究では,このobservation inflation現象がどのように生じるのかの説明を目指している。 本年度は,昨年度に実施した研究で得られた,運動シミュレーションの指標として扱われる脳波成分とobservation inflationの生起量に相関がみられたという研究成果を英語論文にまとめ投稿するとともに,新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて実験計画を変更し,既に取得済であった安静状態で記録される脳波と本現象の関連について解析を行った。 刺激入力を伴わない安静状態で記録される自発脳波は,言わば個人の脳活動のデフォルト状態,脳活動の個人差を反映すると考えられる。そこで,どのような個人で記憶の情報源判断のエラー全般やobservation inflation現象が生じやすいのか,脳活動の個人差との関連を検討するため,自発脳波の指標と,日常における記憶の情報源判断のエラー経験頻度(リアリティモニタリングエラー経験質問紙: RMEEQ)およびobservation inflation現象の生起量の関連をそれぞれ検討した。その結果,前頭部のβ帯域の神経活動において,神経細胞の発火の閾値を反映すると考えられるピーク周波数の変動しやすさと,日常での記憶の情報源判断のエラー経験の頻度の間に関連がみられた。また,observation inflation生起量は,前頭βピーク周波数の低さと関連していることが明らかになった。これらの研究成果の一部は,第38回日本生理心理学会大会にて発表するとともに,広島大学大学院人間社会科学研究科紀要「教育学研究」に掲載された。
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