ステンレス鋼は、建材・産業用機器などの様々な用途に使用される重要な耐食材料である。しかし、塩化物環境では腐食が生じる場合があり、特にステンレス鋼の熱影響部では鋭敏化が生じ、応力腐食割れや孔食などの感受性が増大することが知られている。なかでも孔食は、あな状の溶解、ピットを伴う腐食現象であり、孔食起点はMnSなどの硫化物系介在物であることが多く、応力下では、孔食発生が促進されるという場合がある。そのため、塩化物環境における硫化物系介在物を起点とする負荷応力下での鋭敏化ステンレス鋼の耐孔食性向上は非常に重要な研究課題である。本研究では、負荷応力下においても孔食起点になりにくい硫化物系介在物の探索を行い、孔食を起点とする応力腐食割れが生じにくいステンレス鋼の開発を目指す。 昨年度までには、応力による孔食発生促進機構の解明および応力腐食割れの成長初期過程の挙動解析および負荷応力下においても耐孔食性に優れた硫化物系介在物の指針の導出を行った。応力による孔食発生促進機構に関して、負荷応力下での鋭敏化ステンレス鋼における孔食発生促進とMnS介在物の溶解との関係を明らかにした。負荷応力下ではMnS介在物の溶解量が増加することで、負荷応力下でMnS介在物を起点とする孔食の発生が促進されたと結論付けられる。介在物溶解加速の要因として、硫化物系介在物の表面に形成される酸化皮膜の水溶液中での熱力学的な安定性が低いことが考えられた。この結果より、負荷応力下で孔食発生が促進されにくい介在物の方針が示唆され、クロム硫化物やチタン炭硫化物が有力な候補として考えられた。これらの介在物を含むステンレス鋼を実際に作製し、負荷応力下での耐孔食性を評価したところ、負荷応力下においても耐孔食性が低下しにくく、MnS介在物に比べて優れた耐孔食性を示すことを見出した。
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