研究課題/領域番号 |
19J11692
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 秀亮 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | ホパノイド / ラジカルSAM酵素 / ラジカル付加反応 / 生合成 |
研究実績の概要 |
本研究では、ホパノイド生合成におけるユニークな炭素-炭素結合形成反応を触媒すると推定されるラジカルSAM酵素の基質を明らかにし、酵素反応を行って、酵素機能および反応機構を明らかにすることを目的としている。令和元年度は、主として、ホパノイドの側鎖の生合成初期段階の炭素鎖伸長反応に関わると推定されていたラジカルSAM酵素HpnHの機能解析を行った。 遺伝子破壊実験の結果から、HpnHはジプロプテンをアデノシルホパンに変換すると推定されていた。HpnHの活性を検出するに際し、推定基質であるジプロプテンの水に対する低い溶解性が問題となった。そこで、スクアレン-ホペン環化酵素とHpnHを共発現させた大腸菌の無細胞抽出液を用いることとし、反応系中にてスクアレンをジプロプテンに変換し、HpnHと反応させた。その結果、アデノシルホパンがHpnHの活性によって形成されることが明らかとなった。さらに、生成物を反応系から単離し構造解析を行ったところ、生成物は (22R)-アデノシルホパンであることが明らかになった。これは解析に用いたHpnHが立体選択的な炭素鎖伸長反応を触媒することを示す結果である。 次に、大腸菌にて異種発現させたHpnHを嫌気条件にて精製し、ジプロプテンを基質として活性を検出することを検討した。ダンマルゴムよりヒドロキシホパノンを抽出し、これを誘導することでジプロプテンを得た。酵素反応では、ジプロプテンをスクアレンに溶かし、高濃度の界面活性剤存在下で混合することでHpnHと反応させた。その結果、アデノシルホパンが検出され、これによって、HpnHがジプロプテンのC29位と5’-デオキシアデノシンのC5’位の間に新たな炭素-炭素結合を形成する反応を触媒することを明らかにすることができた。また、重水中での実験により水由来の重水素原子がC22位に取り込まれることも明らかとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、ホパノイドの側鎖生合成初発段階の炭素鎖伸長反応に関わると推定されていたラジカルSAM酵素HpnHの機能解析を行った。まず、放線菌由来のHpnHの大腸菌での異種発現に成功し、スクアレン-ホペン環化酵素とHpnHを共発現させた大腸菌の無細胞抽出液を用いて、反応系中にてスクアレンをジプロプテンに変換し、HpnHと反応させたところ、アデノシルホパンが形成されることが明らかとなった。さらに、生成物を反応系から単離し構造解析を行い、生成物は(22R)-アデノシルホパンであることを明らかとした。また、ジプロプテンをHpnHとin vitroで反応させたところ、アデノシルホパンが形成され、これによって、HpnHがジプロプテンのC29位と5’-デオキシアデノシンのC5’位の間に新たな炭素-炭素結合を形成する反応を触媒することを明らかにすることができた。また、重水中での実験により水由来の重水素原子がC22位に取り込まれることも明らかとした。この成果は既に、Angew. Chem. Int. Ed.にて2020年に発表した。これらの成果を鑑みると本年度は期待通りに研究が進展したと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の実験結果をもとに、HpnHが触媒する立体選択的な炭素-炭素結合形成反応の機構を次のように推定している。SAMの還元的開裂によって生じた5’-デオキシアデノシルラジカルがジプロプテンの末端に存在する二重結合にラジカル付加することで、ラジカル中間体が形成される。このラジカル中間体がHpnH活性中心において水とのプロトン交換可能な残基から立体選択的に水素原子を引き抜くことで、(22R)-アデノシルホパンが形成されると考えられる。3級炭素におけるC-H結合の結合解離エネルギーは約400 kJ/molと見積もられていることから、ラジカル停止に関わる残基はCysまたはTyrであると推測している。 今後は、HpnHホモログ間で保存されているCysまたはTyr残基に部位特異的変異を導入し、ラジカル停止に関わる残基を特定する予定である。また、EPR測定によって推定ラジカル中間体を補足し、HpnHによるラジカルを経由した炭素-炭素結合形成機構をより直接的に証明したいと考えている。さらに、HpnH反応に関する検討によって、水への溶解度が低い物質を基質とする酵素反応の実験手法に関する知見を得ることができたため、これを他のラジカルSAM酵素に関する研究にも応用していく。
|